表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こだま憑き  作者: ブルージャム
第三部 幕末編
42/73

旅立ちの剣  対決 その四

 三郎は、落ちた男に突進した。

 と、男は、横向きの姿勢から、地面を蹴りつけ、三郎にとびかかった。男の頭が、三郎の胸に激しく当たった。三郎は、男の脇に手を突っ込み、投げようとしたが、男も三郎の両腕を抱え込んだ。

 三郎と男は、がっちりと組み合うことになった。男は、獣のような声でうなり、三郎を締めあげた。

 三郎は、息を吐きながら、締めあげられた両腕に力をこめた。後退して勢いをつけると、後ろに倒れながら、男を持ち上げ、さらに放り投げた。


 男は頭から落ち、三郎の腕を放した。三郎も投げを打った際、後頭部を地面にぶつけ、すぐさま立ち上がったが、ふらついた。

 男もふらつきながら立ち上がり、打ちかかる三郎のこぶしを、両手で止めた。が、衝撃までは受けきれず、跳ねとばされ、地面を転がった。

 三郎の両手の間に、灰色に鈍く光る長い刀が現れた。

 転がった男も闘志を失わず、片手を地面につき、片手に青白く輝く刀を出現させ、三郎に向かって立ち上がった。


 三郎は、激しく前に踏み出し、瞬間的に刀を振り上げ、神速で振り下ろした。男が片手でかまえた刀をはじき、男の肩からななめに切り下げた。

 切り口から、白い霧のような気があふれでた。

 男は、そのまま前に倒れた。身体が小さくなり、苦しい乱れた息が、三郎まで聞こえてくる。三郎の内部から、自分のものではない声がでた。

「八幡太郎殿。いまの世も、源氏のすえを名乗る者が治めておる。安堵されよ――」

 男は、顔を伏せたまま、かすかにうなずいたようにみえた。


 三郎の内部から、湧き上がった力が、潮が引くように抜けていった。三郎のなかに存在していた何かが、徐々に薄れ、消えていく。

 三郎は、消えてゆく何か――何者かに呼びかけた。

 ――あなたは、誰だ?

 ――イトウ、ヤゴロウ……

 かすかな声が、その何者かが消えたあとに残った。


 猪之助が、ようやく起き上がって、声をかけた。まだ、血の気のひいた顔をしている。

「かたじけない。――また、助けられました」

 三郎は、我に返った。

 ふと、下をみると、祖母から預けられた男びなの人形が落ちている。首をひねりながら、人形を手ぬぐいにつつみ、懐にしまった。

 猪之助に肩を貸しながら、街道をくだっていった。

 伊予の城下が近づくと、土と草のにおいが薄れ、荷物を運搬する浅い河の水と泥のにおいが漂ってきた。

 伊予の港までは、まだ、しばらくかかる。休み休み、ゆっくりと行こう。

 旅立ちは、長い時間がかかるものなのだ。




            < 了 >



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ