旅立ちの剣 対決 その四
三郎は、落ちた男に突進した。
と、男は、横向きの姿勢から、地面を蹴りつけ、三郎にとびかかった。男の頭が、三郎の胸に激しく当たった。三郎は、男の脇に手を突っ込み、投げようとしたが、男も三郎の両腕を抱え込んだ。
三郎と男は、がっちりと組み合うことになった。男は、獣のような声でうなり、三郎を締めあげた。
三郎は、息を吐きながら、締めあげられた両腕に力をこめた。後退して勢いをつけると、後ろに倒れながら、男を持ち上げ、さらに放り投げた。
男は頭から落ち、三郎の腕を放した。三郎も投げを打った際、後頭部を地面にぶつけ、すぐさま立ち上がったが、ふらついた。
男もふらつきながら立ち上がり、打ちかかる三郎のこぶしを、両手で止めた。が、衝撃までは受けきれず、跳ねとばされ、地面を転がった。
三郎の両手の間に、灰色に鈍く光る長い刀が現れた。
転がった男も闘志を失わず、片手を地面につき、片手に青白く輝く刀を出現させ、三郎に向かって立ち上がった。
三郎は、激しく前に踏み出し、瞬間的に刀を振り上げ、神速で振り下ろした。男が片手でかまえた刀をはじき、男の肩からななめに切り下げた。
切り口から、白い霧のような気があふれでた。
男は、そのまま前に倒れた。身体が小さくなり、苦しい乱れた息が、三郎まで聞こえてくる。三郎の内部から、自分のものではない声がでた。
「八幡太郎殿。いまの世も、源氏の裔を名乗る者が治めておる。安堵されよ――」
男は、顔を伏せたまま、かすかにうなずいたようにみえた。
三郎の内部から、湧き上がった力が、潮が引くように抜けていった。三郎のなかに存在していた何かが、徐々に薄れ、消えていく。
三郎は、消えてゆく何か――何者かに呼びかけた。
――あなたは、誰だ?
――イトウ、ヤゴロウ……
かすかな声が、その何者かが消えたあとに残った。
猪之助が、ようやく起き上がって、声をかけた。まだ、血の気のひいた顔をしている。
「かたじけない。――また、助けられました」
三郎は、我に返った。
ふと、下をみると、祖母から預けられた男びなの人形が落ちている。首をひねりながら、人形を手ぬぐいにつつみ、懐にしまった。
猪之助に肩を貸しながら、街道をくだっていった。
伊予の城下が近づくと、土と草のにおいが薄れ、荷物を運搬する浅い河の水と泥のにおいが漂ってきた。
伊予の港までは、まだ、しばらくかかる。休み休み、ゆっくりと行こう。
旅立ちは、長い時間がかかるものなのだ。
< 了 >




