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こだま憑き  作者: ブルージャム
第三部 幕末編
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旅立ちの剣  対決 その三

 峠を越えると、はるか遠くに青黒い瀬戸内海がみえる。手前に城下から港へつづく町並みがぼんやりとみえ、長い坂道に飽きてきていた三郎たちは、目標ができて、元気が出た。汗ばんだ身体に鞭打って、歩を進めた。


 くだっていくと、不規則に曲がりくねった道の曲がりの部分に、鬱蒼とした林があった。前後を、雑木林にはさまれ、曲がり終えるまでは、街道をゆく人々からはみえないところで、道の真ん中に、誰かが立っていた。

 三郎は、はっとした。

 見覚えのある人物だった。四人いた追跡者の、つかまっていない最後の男だった。

 三郎は、この男に木刀を打ち込み、すれちがったので、よく覚えている。ひと月も現れなかったので、故郷くににかえったとばかり思っていた。


 猪之助が、腰の短刀に手を伸ばした。数歩、三郎の前に出て、前に立ちふさがる男に、大声で呼びかけた。 

「何者だ? 何の用事か?」

 男は、豪快に笑った。

「盗人のたぐいでないことは、わかっておろう……」

 男は、右手に杖を持っていたが、まったく地面にそれをついていない。男の仲間が持っていた仕込み杖と同様のものだろう。

 男は杖の柄を持ち、無造作に刀を抜きはなった。


 男の顔は、すでに行商人のフリをしていた頃のにこやかな顔ではなかった。血走った眼がらんらんと輝き、三郎と猪之助をにらみつけている。

 三郎は、前に踏み出しかけて止まった。息がつまった。足が容易に動かない。

 男の顔がさらに、浅黒い肌の眉毛の太い、いかつい険しい顔に変わった。気のせいではなく、ひとまわり身体が大きくなった。抜き放った刀には、青白く眩ゆい光がまとわりついている。光は少しづつ伸び、短かった仕込み刀が、短槍に近いくらいの長さになった。


 三郎は、つばを飲み込んだ。味わったことのない、すさまじい気が、うねる波となって三郎と猪之助に襲いかかってくる。剣気、いや、これこそ、鬼気としかいいようのないものだった。

 と、三郎のなかで、何かが動めいた。三郎の魂の内側、さらにその奥底から、ゆっくりと何かが起きあがった。そのものは、三郎のなかで、大きく広がり、身体全体に重なっていった。

 三郎は、大きく息を吸って、ゆっくり息を吐いた。全身がかっと熱くなり、力がみなぎってきた。


 相対する男に、気合を込めて問いかけた。

「われは、伊田三郎! 鬼気をまとう者よ! 名のることもできぬのか?」

「われは源氏が頭領、源の義家なり――」

 男は抜き身の刀を、猪之助にも三郎にも届かぬはずの、間合いで振った。

 三郎は、とっさに腰に差していた木刀を抜き、長く伸びた青白く輝く刀を防ごうとした。

 激しい衝撃が腕と肩から伝わり、木刀が真ん中から折れ、はじけ飛んだ。必死でかがみこみ、仰向けに反った身体をもとに戻した。


 猪之助が、あっと短い声をあげ、地面に転がった。手にあった短刀がなくなっている。道の端まで転がり、かろうじて林にはいる手前で止まった。林のなかは、急な下り坂になっている。なかまではじかれたら、下まで転がり落ち、けがを負っていたかもしれない。


 男は、猪之助のことは気にせず、三郎に打ちかかった。丸太のようにふくらんだ青白い光の剣を振りおろした。

 三郎は、内側から未知の力が湧き上がるのを感じた。折れた木刀から灰色の光の剣が伸び、男の剣を弾き返した。さらに踏み込み、男の刀を持った手首に切りつけた。男の手から、仕込み刀が落ちた。


 三郎は、さらに切り込む。

 が、男はにやりと笑い、一歩横によけ、三郎の側頭部にひじ打ちをしかけた。

 三郎は一瞬の判断で、首をまわし、額でそれを受けた。後ろに跳ね飛ばされながら、片手で男の腕をつかんだ。折れた木刀を捨て、背負いで相手を投げた。

 男は、驚いた顔をしたが、空中で身体をひねり、横向きで落ちた。

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