旅立ちの剣 旅の準備
追手の三人は、藩の役人に引き渡された。
三人とも何もしゃべらず、扱いに困っているということだった。隣の藩に問い合わせても、向こうは知らぬ存ぜぬで、埒が明かない。数年、重労働をさせたあと、罪人の印をつけ、藩外に追放するしかなさそうだった。
場所が追手に知られてしまった以上、今の場所に、猪之助を、このまま居させるわけにはいかなかった。
三郎は祖母と相談し、知り合いの炭焼小屋にかくまうことにした。
猪之助は、迷惑をかけられない、もう出立します、と抵抗したが、まだ身体がふらついているのに、旅立たせるわけにはいかない。
ここまで関わったのだから遠慮するなと、祖母と三郎とで、強引に連れていった。
その後は、何事もなくひと月が過ぎた。
回復した猪之助を送って、三郎も伊予まで同行することになった。
ひと月のあいだ、三郎と小夜は、何度も猪之助と話をした。歳が近いこともあって、昔からの知り合いのように親しくなった。
三郎は、猪之助の持つ理想や信念がまぶしかった。
猪之助のほうが年下なのに、世の中のことが、ずっとみえているようだった。
田舎の小さな藩で、ただ剣の修業だけしていたのでは、駄目なのではないか? 自分も広い世界へ出て、世のために、何かできることがあるのではないか? そんなことばかり考えてしまうのだった。
出立を明日にひかえたその日、三郎は、祖母に呼ばれた。
祖母の部屋に行くと、小さな木箱が開けられ、反故紙が、そのまわりに散らばっていた。反故紙は木箱のなかのものを守るために、一緒に入れられていたもののようだ。
木箱には見覚えがある。確か、人形が入っていたはず……。
「よう来た。旅立つ前に、渡したいものがあるのじゃ」
祖母は、箱から出して卓の上に置いていた人形の一体を取りあげた。丁寧に乾いた布で拭き、人形の正面側を三郎にみせる。
「これを、持っていってもらえるか?」
「これを?」
「お守り代わりじゃ」
三郎は、人形を受け取った。
家に代々伝わるひな人形の一体。男びな・女びな二体だけの、このひな人形は先祖が仙台にいたころから伝わるもので、女児がいないときでも、毎年飾られている。
「女びなと離してしまっていいのですか?」
三郎が尋ねると、
「かまわん。……この人形たちには、別々のところに置いても、必ず二体そろうように、同じ場所に戻ってくるという伝承がある。――必ず帰ってくるんじゃぞ」
「猪之助殿を送っていくだけです。伊予まで送り届けたら、すぐ戻ってきます」
祖母は年をとって色が少し薄くなった以外は、衰えのみえない黒い眼を見開き、三郎をにらんだ。
「わかっておる。念のためじゃ」




