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こだま憑き  作者: ブルージャム
第三部 幕末編
37/73

旅立ちの剣  対決 その二

「渡さなければ、命をなくすぞ」

 老人も、持っていた杖を左腰にかまえ、杖の先に手をそえた。

 ふむ、居合か。

 千代ばあさんは、ひとりごちた。

 老人の杖が仕込み杖なのは、間違いなさそうだった。後ろのふたりも、腰の短刀に手をかけている。老人の初撃をふせいでも、後ろのふたりがすぐさま斬りかかってくることが推察できた。 


老人たちが、じりじりと間をつめてくる。

 千代ばあさんは少しさがって、橋の欄干に身を寄せた。

 千代ばあさんの着物が欄干に触れた瞬間、後ろの二人が動いた。


 老人を追い越し、短刀を抜き、千代ばあさんに飛びかかった。が、千代ばあさんが欄干に寄ったために、片側からしか攻撃できない。前後に並んで、短刀を切りつけることになった。

 ばあさんは、一歩前進し、前の男が降りおろす短刀の根元に杖を叩きつけた。短刀を持つ手の骨のつぶれる音がして、前の男の手から短刀がはじかれ、男の身体は、のけぞって後ろの男にかぶさった、


 後ろの男は、前の男を肘で防ぎ、横にころがしながら、ばあさんの脇腹に短刀を突き立てようとした

 ばあさんは、さらに半歩進み、欄干に身体を押し付け、その反動で回転しながら、突っ込んできた男のあごを杖で打った。

 男はばあさんの帯に短刀をわずかに突き刺したまま、突進してきた老人の前にころがった。


 老人は腰を低くし、ぎりぎりまで待ってから仕込み刀を抜いた。前にころがる男たちが邪魔だったが、裂ぱくの気合で居合切りを放った。

 刀はばあさんの喉に届くはずだった。が、ばあさんは、すでにそこに居なかった。半歩、ななめ後ろに下がり、紙一重でかわすと焚き木を投げつけた。

 老人には、ばあさんがいつ焚き木をつかんだのか、みえなかった。焚き木が額に当たる寸前に二度目の居合を放った。刀は空を切り、額に焚き木があたる。木くずが目の前をふさいだ。

 木くずの後ろから、タテに細い何かが飛び出した。ばあさんの杖が老人の額に叩きつけられた。杖はしなって、額を割り鼻骨をへし折った。

 後方でみていた行商人は、老人が倒れるのをみると、くるりと向きを替え、逃げ出した。

「なにやつ!」

 林を抜けて山道を降りてきた三郎が、逃げ出した行商人に木刀を叩きつけた。とっさによけた行商人の右肩に木刀が食いこむ。行商人は衝撃を殺すように膝を曲げ、腰を落とすと、その姿勢のまま、三郎の横を走り抜けた。


「待て!」

 三郎の呼びかけに答えず、林のなかに姿を消した。

 三郎は、踵を返し、千代ばあさんのもとに駆け寄った。千代ばあさんは、帯に刺さった短刀を引き抜き、三郎に渡した。

「ご無事ですか? 小夜は?」

「兄上! わたくしも猪之助殿も無事です」

 橋の奥から、少年の身体をささえた小夜が、大声でこたえた。

 三郎は、ホッとして、大きく息を吐いた。 

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