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こだま憑き  作者: ブルージャム
第三部 幕末編
36/73

旅立ちの剣  対決 その一

「誰か、近づいてきておるようじゃ」

 千代ばあさんが、ふいに声をあげた。

 猪之助と話し続けていた小夜が振り向いた。

「兄上が、あとから来るっていってた」

「いや、三、四人、おるようじゃ」

 千代ばあさんは、木刀替わりの杖をとりあげ立ちあがった。


「心当たりは、あるかの?」

 猪之助は強く首を振り、立ちあがった。

「ここに、いてください」

 ふたりに迷惑をかけたくないのか、外に出ようと、小夜を手で制し、千代ばあさんの横を通り抜けようとした。

 と、千代ばあさんが、猪之助の肩を押さえた。肩に置かれた手を、猪之助は振り払おうともがいた。

 が、びくともしない。千代ばあさんの手が重しとなって、猪之助の身体を押さえていた。老人の手とは思えない強さだった。


「行かせてください! ここで斬り合いになったら、おふたりがあぶない」

「わしに、まかせてもらえんか?」

 千代ばあさんは、鋭い眼で、猪之助をみている。

 小夜も、猪之助の腕をとって、祖母に加勢した。

「おばあさまは、大丈夫だから。その怪我じゃ無理だから!」

「お主が出れば、切られるだけじゃ。他藩の、それも武家の者がいれば、無茶はできまい」


 猪之助は、ふらつき膝をついた。やはり、無理をしていたようで、くそっという小さな声を漏らし、千代ばあさんと小夜に頭をさげた。

「情けないが、お頼み申します。追手は、何人も切り殺している手練れです。くれぐれも気をつけてください」

 千代ばあさんは、うなずくと、焚き木のあいだを抜け、橋のたもとに出た。

「誰か、おるのか? 隠れておらんで出てこんか!」

 大声で呼びかけた。

「四人、いるようじゃの。何用(なによう)じゃ?」

 木々の奥でガサゴソと音がした。白い巡礼装束をまとい、笠をかぶった老人と、その後ろに付き従う家来らしき男がふたり、姿を現した。


「まだ一人、いるじゃろ?」

 千代ばあさんは、鋭い目で、林の奥をにらみつけた。

 また、ガサゴソと音がして、先の三人とは離れた、右手の方の木の陰から、行商人の男が現れた。

 白装束の老人が、口を開いた。 

「奥にいる者を、こちらに渡せ」

「渡せぬな」

 千代ばあさんは、まったく動じた様子が無かった。刀替わりの杖を軽く握り、膝を少し曲げ、右足をわずかに前へ踏み出した姿勢を保っている。

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