旅立ちの剣 発覚
行商人は、国境まで続く街道をそれ、林のなかに入ってゆく三郎の跡をつけた。
足音を殺し、息をひそめ、林のなかの草木に触れても音が出ないよう、柔らかい動きの特殊な歩行方法を用い、なおかつ速い速度で三郎を追いかけた。
三郎は、まったく気づかぬ様子で、焚き木置き場と思われる屋根のある橋をわたり始めた。三郎の姿が、積み重なった焚き木の陰に隠れた。行商人は、橋の反対側を、じっと見つめた。
が、三郎は、いっこうに出てこない。行商人は、奥歯を噛みしめ、考え込んだ。
橋の上で何をしている? 覗きこんでみるか?
いや、橋の入口には、物陰にするものがない。見つかるとまずい……。
逡巡していると、三郎が出てきた。
行商人は、はっとした。背負っていた風呂敷がなかった。橋のなかに置いてきたらしい。
気はせいたが、三郎がこちらに気づかぬ距離まで遠ざかっていくのを、じっと待った。
三郎の姿が見えなくなってから五十数えたあと、隠れていた木々の陰から出て、橋のたもとに向かう。
気配を殺し、積み重なった焚き木の向こう側を、慎重にのぞき込む。
行商人は、声をださずに笑った。
――やっと見つけたのだ、脱藩者を。
三郎は、道場に戻ると、待ちかねていた小夜と祖母に、昨日より顔色が良く、身体の方は心配ないだろうと話した。
陽が天頂近くまで昇り、暖かくなってから、昼飯を持って、小夜と祖母が出かけた。
祖母は七十近いが、背筋は伸び、足腰もしっかりしている。道場にも、たまに出て初心者の相手をしてくれていた。若い頃の速さはなくなったものの、相手の動きを予測した的確な身体移動で、練習試合でも、めったに遅れをとることはなかった。もし、なにかあっても、ケガをした十二、三歳の子供に後れをとることはないだろう。
父上も行きたそうにしていたが、父上が動くと、さすがに目立ってしまう。三郎も、道場での鍛錬を終えてから、少年のもとへ向かうつもりだった。




