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こだま憑き  作者: ブルージャム
第三部 幕末編
30/73

旅立ちの剣  逃亡者

 見慣れない顔だった。狭い村だから、武家、町民、農民の子らの顔は、一応覚えている。

 新しく村に来た子だろうか? 着物は古着のようだけれど、武家のもののようだった。

 江戸詰めから城勤めになって、戻ってきたお役人の子だろうか?

 はっとした。荷物をかかえてうずくまった少年の腰の下に血だまりができている。かなり前から出血しているのか、半分ほどは黒く変色し固まっている。

 少年は、小夜をじっと見ている。髪はぼうぼうで、垢まみれの顔のなかで、眼だけが光っていた。ぜいぜいと息が荒い。


「けがをしているの?」

 聞いても、何もこたえない。血は着物の袖の内側からたれていた。

「……触っていい?」

 聞きながら、そっと少年の手をとった。 

 少年は、小夜の手を引きはなそうとした。が、もう体力が尽きたのだろうか、一瞬手に力がはいっただけで、小夜の手の動きをさまたげることはなかった。

 少年の着物の袖を引き上げる。血は肩から流れてきていた。傷口はふさがりかけており、これ以上の出血はないように思えた。


 少年の額に手を当てる。思ったほどの熱はない。が、手から、少年の震えが伝わってくる。

 小夜は、布袋から手ぬぐいを取り出し、肩の傷口を覆うように巻きつけ、結んだ。

「着替えは持っている?」

 少年は首を振った。そばに落ちていた包みを開いてみた。着るものはなく、汚れのついた短刀と、食べた飯の残りなのか、コメ粒がいくつか布にくっついているだけだった。


「家は、どこ? この近く?」

 小夜は、無邪気に尋ねた。が、少年は弱々しく、しかし決然と首を振った。

「……遠くから来たの? まさか、藩の外から?」

 少年は黙り込んだままで、一言も発しない。

 小夜は少年の傷口を、もう一度見た。少し腫れているが、命にかかわるものでは無さそうだった。

 小夜は、このまま放っておこうかとも考えた。でも、明日ここに来て、少年が死んでいたりしたら、一生後悔するだろう。どうしよう。

「小夜おおおぉぉ、どこだああぁぁ?」

 兄上だ。……探しに来たんだ。

「兄上、こっち、こっち!」

 小夜は、大声で兄を呼んだ。  


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