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こだま憑き  作者: ブルージャム
第三部 幕末編
29/73

旅立ちの剣  発見

 妹の小夜が、なかなか帰ってこないので、迎えに行くようにいわれた。

 ――どこで、道草をくっているのだろう? あれほど、まっすぐ帰るよう、いわれていたのに。

ここ最近、村の周辺では野犬が増えている。幼な子や婦女子は腹をすかせた野犬の格好の餌食だった。婦女子が弱いことを、野犬の奴らは、ちゃんとわかっている。大人と一緒にいるあいだは手を出さないが、幼な子だけだと、四、五人で連れだって歩いていても、意に介さず襲ってくる。

 三郎は木刀を帯に差し、藩校へ続くなだらかな坂道を、妹を探しながら、ゆっくりと下っていった。


 小夜は、押し花にする色の濃い草花を探しながら、せまい街道を、少しずつのぼっていった。さっきまでは、同じ藩校に通う千枝ちゃんがいっしょだった。けれど、夕餉の支度があるからといって、帰ってしまった。 

 見つけた花を、葉のついた茎の適当なところで切って、布袋にほうりこむ。

 今探しているのは、紫と赤の花だ。

色は濃ければ濃いほどよい。

押し花にすると、花の色はとても薄くなってしまう。あざやかだった色が褪せてしまうのが、小夜には、どうにも我慢できない。

 夢中になって、花を探していると、いつのまにか、峠の頂きちかくまで来ていた。

 汗をぬぐう。

 日陰でひとやすみしよう。きょろきょろしていると、流水の音がきこえた。

 そうだ、この近くに、蟹のいる川があった!

 行ってみよう!

 街道をそれると、林のなかに、村人が使う邪魔な石や草をのけただけの粗末な山道があって、おりてゆくと、すぐ涼しい川べりにでた。川を覗くと、大小の岩にあたって出来た水しぶきが、けっこうな高さまではねあがり、顔まで届きそうだった。

 あっ、ちょうどいい! あれだったら、日陰があって休める。

 伐採した焚き木の置場になっている、屋根のある幅の広い橋が、すぐ向こうにかかっていた。


 小夜は、焚き木のうえに布袋を置き、そのよこに座り込んだ。橋の板材の隙き間から、下を流れている、橋げたに衝突し泡だつ川の水がみえる。もこもことした泡の流れがおもしろく、見ていて飽きなかった。

 ――ガサッ。

 すぐ近くで音がした。

 小夜はふりむいた。形よく積み重ねられた焚き木の向こうに、誰かがいた。

 ――ガサッ。

 小夜の見つめる焚き木の山の頂上から、数本の細い枝が、滑り落ちた。

 ゆっくりと小夜は立ちあがった。立ちあがっただけでは、背が低いので、向こう側が見えない。

 野犬か猪か、それとも、どこからか逃げた豚だろうか? 

 この間も豚が逃げて、村の大人たちが懸命に探し、野犬に囲まれていたのを助けたことがあった。

 背伸びをする。それでも見えないので、二、三歩進んで足元の太めの焚き木の上に立ち、目の前の焚き木の枝に手をついた。


 ――あっ。

手をついた焚き木が向こう側に崩れ、小夜も、たくさんの枝といっしょに前に滑り落ちた。

 すぐ近くで、とても苦しそうな息の音がした。

 腹ばいになった姿勢から見あげると、青ざめた顔をした少年が座り込んでいた。

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