旅立ちの剣 発見
妹の小夜が、なかなか帰ってこないので、迎えに行くようにいわれた。
――どこで、道草をくっているのだろう? あれほど、まっすぐ帰るよう、いわれていたのに。
ここ最近、村の周辺では野犬が増えている。幼な子や婦女子は腹をすかせた野犬の格好の餌食だった。婦女子が弱いことを、野犬の奴らは、ちゃんとわかっている。大人と一緒にいるあいだは手を出さないが、幼な子だけだと、四、五人で連れだって歩いていても、意に介さず襲ってくる。
三郎は木刀を帯に差し、藩校へ続くなだらかな坂道を、妹を探しながら、ゆっくりと下っていった。
小夜は、押し花にする色の濃い草花を探しながら、せまい街道を、少しずつのぼっていった。さっきまでは、同じ藩校に通う千枝ちゃんがいっしょだった。けれど、夕餉の支度があるからといって、帰ってしまった。
見つけた花を、葉のついた茎の適当なところで切って、布袋にほうりこむ。
今探しているのは、紫と赤の花だ。
色は濃ければ濃いほどよい。
押し花にすると、花の色はとても薄くなってしまう。あざやかだった色が褪せてしまうのが、小夜には、どうにも我慢できない。
夢中になって、花を探していると、いつのまにか、峠の頂きちかくまで来ていた。
汗をぬぐう。
日陰でひとやすみしよう。きょろきょろしていると、流水の音がきこえた。
そうだ、この近くに、蟹のいる川があった!
行ってみよう!
街道をそれると、林のなかに、村人が使う邪魔な石や草をのけただけの粗末な山道があって、おりてゆくと、すぐ涼しい川べりにでた。川を覗くと、大小の岩にあたって出来た水しぶきが、けっこうな高さまではねあがり、顔まで届きそうだった。
あっ、ちょうどいい! あれだったら、日陰があって休める。
伐採した焚き木の置場になっている、屋根のある幅の広い橋が、すぐ向こうにかかっていた。
小夜は、焚き木のうえに布袋を置き、そのよこに座り込んだ。橋の板材の隙き間から、下を流れている、橋げたに衝突し泡だつ川の水がみえる。もこもことした泡の流れがおもしろく、見ていて飽きなかった。
――ガサッ。
すぐ近くで音がした。
小夜はふりむいた。形よく積み重ねられた焚き木の向こうに、誰かがいた。
――ガサッ。
小夜の見つめる焚き木の山の頂上から、数本の細い枝が、滑り落ちた。
ゆっくりと小夜は立ちあがった。立ちあがっただけでは、背が低いので、向こう側が見えない。
野犬か猪か、それとも、どこからか逃げた豚だろうか?
この間も豚が逃げて、村の大人たちが懸命に探し、野犬に囲まれていたのを助けたことがあった。
背伸びをする。それでも見えないので、二、三歩進んで足元の太めの焚き木の上に立ち、目の前の焚き木の枝に手をついた。
――あっ。
手をついた焚き木が向こう側に崩れ、小夜も、たくさんの枝といっしょに前に滑り落ちた。
すぐ近くで、とても苦しそうな息の音がした。
腹ばいになった姿勢から見あげると、青ざめた顔をした少年が座り込んでいた。




