鬼婆の剣 鬼婆の説教
千代の祖父は、伯父を送って、門のすぐ外まで出た。千代が試合に勝ってから、体調がよく、道場のまわりを少し歩くのが日課になっていた。
――やはり、心配事が減ったからだろう。
寒い朝や夕方に、必ずといっていいくらい出ていた咳も、今のところおさまっている。
伯父に初孫ができたことなど、のんびりと立ち話をしていると、男女のわめくような声が聞こえた。
振り向くと、あばれる二郎の頭と源太の腕を、何が何でも放すものかと、がっしり抱え込んだ千代が戻ってきていた。
千代は髪を振り乱し、顔を真っ赤にして息を切らし、なんとか逃げようとする二郎と源太を無理やり引きずっている。
門の前にいる伯父を見ると、千代は、ばつが悪そうに、
「もう、用事は終わられたのですか?」
いいながら、申し訳程度に、素早く頭をさげる。
そうしながらも、暴れる二郎と源太を放そうとしない。逆に、より一層力を入れておさえつけている。
祖父は、あきれた顔で声をかけた。
「仲が良いのもいいが、そんな様で出歩いていると、嫁の貰い手がなくなるぞ」
千代の顔が赤くなった。
「よい、よい。・・・仲の良いご兄弟で何よりじゃ」
伯父は、笑いながら、片手を背中越しに振ると帰っていった。よほどおかしかったのか、肩が震えていた。
源太は、千代があいさつをしている隙に、すっと腕を抜いて逃げてしまった。
残された二郎は、道場のなかに引っぱり込まれた。
正座をさせられ、千代から説教を受けている。
――婚姻の約束が破棄されたことを・・・さて、いつ話したらよいかの。
祖父は、悩みながら、道場にはいった。
千代の大声での説教は、延々とつづき、近所にも響きわたっている。
――これでは、ますます鬼婆といわれるのう。
祖父は苦笑いし、威厳のある顔をつくろって、千代の説教を止めるため、おもむろに口を開いた。
< 了 >




