表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こだま憑き  作者: ブルージャム
第二部 江戸時代編
26/73

鬼婆の剣  村の噂

 怒髪天をつく怒りとは、まさに今の千代の怒りだった。

 唇がわなわなと震えた。

「この子は、この子は、ひとの気も知らないで・・・」

 千代は、村の子らの輪の中に強引に踏み入った。じたばたする二郎のえり首をつかんで、尻をたたく。渾身の力を込めて、何度もげんこつでたたいた。

「――痛いよ、姉上!、痛い!痛い!」

 女とはいえ、道場の師範として鍛えられた腕力で叩かれるのだ。生半可な痛さではなかった。

「――やめろ!鬼婆!」

源太が、どこから拾ってきたのか、細い木の枝で、二郎をつかんでいた千代の手首をたたいた。

「痛っ!」

千代は、思わず二郎を放した。うわあっといいながら、二郎が逃げる。千代は鬼の形相で源太にせまり、振り回す木の枝をつかんで折った。

 うわあっと声を上げて、源太と、そのまわりの子らも逃げる。

「こらっ、待ちなさい!」

 果てしなく頭に血が上った千代は、右に左に逃げる二郎や、源太たちを追いかけた。ひとりをつかまえては、頭をはたき、次のひとりをつかまえては、背中をたたく。

 おもしろがった村の子らは、鬼婆じゃあ、鬼婆がきたあ、といって逃げ回る。

 千代は、まわりに村の大人がいるのもかまわず、無心で追いかけまわした。こんなに、腹がたったことは、今までなかった。無心に、必死に子らを追いかけた。子らの悲鳴と笑い声が、天まで届いていた。

 

「申し訳ないが、飯田の家から、婚姻の約束は無かった事にしてくれ、といってきた」 

 母方の伯父は、金子をいれた紫の包みを、千代の祖父の前に、ゆっくりと差し出した。

「・・・理由はなんじゃ」

 祖父は、包みを見つめながら、ぼそっという。

「いわねば、駄目かの?」

 伯父は、困った顔で尋ねかえした。

「理由もなく、無かったことにしてくれといわれても納得がいかん」

 祖父は、腕を組み、憮然としている。

「まあ、そうじゃの」

 伯父は、深いため息をついた。

「飯田の小僧が、親に泣きついてきよったのじゃ。――鬼婆の嫁など貰いたくないといっての」

「なんと、意気地のないオトコじゃ・・・。千代ほど優しい子はおらぬというのに」

 祖父は、憤懣やるかたない様子で、冷えてしまった茶を飲んだ。湯呑をたたきつけるように置いた。

「よかろう。・・・千代も気のりしてなかったようじゃし」 

伯父は、紫の包みを、前に押した。

「先方からの気持ちじゃ」

 祖父は、包みをじっと見た。ため息をつくと、包みを取りあげ、懐にいれた。

「千代にいえば、突っ返せ、と言うじゃろうが、あって困るものではないからの」

 赤字続きの道場の助けに、ほんの少しだが、なるかもしれない。

 千代にはいわず、金の要りようなときに、不足分をこっそり出してやればよいだろう。

 折れた竹刀や木刀の修繕、道場着を仕入れたりするときに、弟子の誰かに頼めばよい。今までも、そうしてきたが、千代は意外に金銭の出入りにうとく、ばれたことはない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ