表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こだま憑き  作者: ブルージャム
第二部 江戸時代編
25/73

鬼婆の剣  戦いのあと

 幸四郎たちを見送ると、千代は、自分の内側の、さらにその奥に真摯に問いかけた。急速に存在が薄れていくその誰かに、必死で声をかける。

 ―――あなたは、誰・・・?

 その誰かは一度振り返り、聞こえるか聞こえないかぐらいの、小さな声でつぶやいた。

 ・・・イトウ、ヤゴロウ。

 かすかに、そう聞こえた。

 千代は、もう一度呼びかけた。

 が、そのヤゴロウと名乗るものは、千代のなかから去ってしまったらしく、何も返ってこなかった。

 気がつくと、二郎が心配そうな顔で、千代のあいているほうの手を握っていた。何度も、千代の手を引っぱっていたようだった。

 千代は、ため息をついて小さく笑い、二郎を抱き寄せた。


 お助け金を決めた試合の数日後、千代の道場を、藩の重役を担っている母方の伯父が訪ねてきた。千代の婚約をまとめたのもこの伯父で、何かとおせっかいを焼いてくる。

 祖父の部屋に案内し、茶を出すと、昼飯後に外に出て戻ってこない二郎を、探しに出た。放っておくと、陽が沈むまで、村の子供らと遊び惚けてしまう。

 そろそろ、道場の後継ぎとしての自覚を持ってもらわないといけない。

 遊び場所の見当はついていた。近くにある山沿いの竹林のなかの空き地にちがいない。村の子供らと、よく相撲や鬼ごっこをやっている。

 歩いていると、すれ違った村の子らが、こそこそ小声で何かいっている。

 千代は、昔から耳が良い。オニババ、オニババと囁いているのが聞こえた。振り返ってにらんでやると、ぎょっとした顔をして逃げてゆく。

 あの試合の翌日から、千代のことを、影で鬼とか鬼婆とかいう輩が増えた。試合中の自分の顔は見られないからわからないが、そんなに怖い表情だったのだろうか?

 千代にも乙女としての自負がある。並みの男より背が高く、男っぽいといわれるが、鬼などといわれれば、傷つく。ましてや、鬼婆などと、山中に棲む人食いのたぐいではないか。 

祖父や二郎は、噂を聞いているだろうに、気を使っているのか、そのことが家で話題にのぼることはない。

 いずれ、このような噂は消えてゆくのだろう。けれども、不快なことに変わりない。


 長い生垣の角を曲がると、寺の門の前に、二郎と数人の村の子らが集まって、勢いよくしゃべっている。

 二郎を中心に円陣のような形になっており、周囲を見ていない。

 驚かせてやろうと、忍び足で近よった。

 興奮した二郎の声が聞こえてきた。

「その時の姉上の顔、本当に鬼婆だった。――笑うと、口が裂けて牙をむき出したように見えて、眼はつりあがって、鬼婆もかくや・・・という有様だった」

「それで、それで、・・・どうなった?」 

 村の、確か源太とかいった小僧が二郎に続きをうながす。

 千代は、愕然とした。

 道場のあとの仕返しのことまで、噂になって流れていた。気がつかなかったけれど、誰か、村の者が見ていたのだろうと思っていた。無邪気に村の子らに話をしている二郎・・・こ奴が鬼婆などと、おおげさに振れまわっていたのだ。

 千代の胸の内に、激しい怒りが湧きあがってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ