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こだま憑き  作者: ブルージャム
第二部 江戸時代編
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鬼婆の剣  意趣返し その二

 千代も、前に進みながら試合では使うことのなかった予備の木刀をかまえた。

 幸四郎は、数歩分、間合いをつめるとふいに動いた。

 千代には、自らの顔を突き刺す槍の先がみえた。かろうじてよけると、槍の先が上がり、千代の肩に、ななめに振り下ろされた。

 木刀でふせぐ。

 強い力で押し戻され、木刀の背が肩にあたる。あたった側の半身に衝撃としびれが走った。

 木刀を落としそうになった。

 千代の身体の奥底で、また何かがゆっくりと立ちあがった。

 幸四郎が手をゆるめず、激しく突いてくる。

 千代の身体が、はためく反物のように柔らかく横に移る。突いてきた槍のなかほどに、木刀を叩きつける。

 幸四郎が槍をすばやく抜く。が、抜けなかった。千代の着物の袖が槍の先端部に巻きついている。


 幸四郎は、どっと汗をかいた。このまま抜き続けるか、突き返すか、一瞬迷った。

 千代の木刀が鈍く灰色に光った。一瞬止まった槍に、神速で木刀を振りおろした。

 生涯最速の振りだった。 

 しゅっと、かすかに音がして、幸四郎の槍が、切りつけた箇所からふたつに分かれた。

幸四郎は、あきらめず、切られた槍の残りの部分で激しく突いてきた。


 千代は落ち着いていた。

 灰色に光始めた木刀を、右斜め下から振り上げた。力の込められた槍の残りを全身の力を使って跳ね返した。

 短くなった槍の残りが、幸四郎の手から離れて、宙に舞った。

 千代は、そのまま幸四郎に突進し右肩をぶつけた。弾けとんだ幸四郎は、門弟にぶつかり地面にころがった。ころがった二人を、真横から灰色の木刀で切った。手首に丸太を切ったときのような負荷がかかる。が、そのまま押し切った。


 幸四郎と門弟の若者は、息も絶え絶えでしばらく動かなかった。

 千代は、動けないふたりを見て、にやっと笑った。鬼の笑いのような酷薄な、非情さをあらわした笑いだった。

「鬼じゃ!。鬼じゃああ!」

 倒れた若者が、恐怖にかられて、声をあげた。

 必死で、千代から離れようとしている。

 幸四郎たちはよろよろと立ち上がり、四つん這いになって半分転がりながら、逃げ出していった。



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