鬼婆の剣 試合終了
清右ヱ門は、何度も何度も、千代の木刀を叩いてきた。
千代が意外に素早く、巧みな足さばきで打ち込みをかわし、受け流すので、身体に打ち込むのをあきらめ、ひたすら木刀を折ろうとしている。
わかっていながら、千代にはどうすることもできない。
清右ヱ門の打ち込みを受けつづけるうち、ついにその時がきた。
鈍い音。
衝撃が走る。
木刀の折れた半分、真ん中から刃先の部分が、あらぬほうへ弾けとんだ。
清右ヱ門は満面に笑みを浮かべ、勝どきの声をあげた。打ち込んだ勢いのまま、素早く木刀を振りかぶる。激しくそれを打ちおろした。
千代はひるむことなく、勢いのまま突っ込んだ。
折れた木刀の先から、灰色の何かが素早く伸びた。鈍く灰色に光るそれは、さながら真剣のようにみえた。
清右ヱ門の木刀は、灰色の刀にたやすく弾かれた。清右ヱ門の眼が、驚愕で見ひらかれた。灰色の刃は、そのまま清右ヱ門の胸に突き入り、背中まで突き通った。
蒼白な顔で前に倒れる清右ヱ門をよけられず、千代は正面からぶつかり、清右ヱ門を突き飛ばした。
清右ヱ門は、激しい音をたてて、床に転がった。ウオウ、ウオウとうめき声をあげている。
千代も片膝をついた。
指の先から、肩、足先まで震えが止まらない。硬く分厚いものを、長い時間をかけて突きぬいた後のように腰に力が入らない。
木刀を見ると、伸びていた灰色の切っ先は消えていた。
振り返ると、清右ヱ門はうつ伏せに倒れたまま動いていない。突きぬいたはずの背中には、何の跡もなかった。血の跡もない。
「それまで!」
見届け人が、声を張りあげた。
「勝者、伊田道場、千代殿!」
見届け人は倒れた清右ヱ門に近寄り、上向かせ、息をしていることを確かめた。
相手の道場の門人たちが、清右ヱ門に駆け寄った。清右ヱ門は息を吹きかえし、ぼんやりとしたまなざしで、まわりを見ている。
森幸四郎も、いまや少しも隠そうとせず、清右ヱ門の介抱をしていた。
森清右ヱ門、森幸四郎、ひょっとしたら親戚筋かもしれない。
なんで気付かなかったのだろう?
千代は、苦笑いをしながら立ち上がった。身体がまだ、重かった。二郎がささえようと、背中に手をまわしてくれる。
別室に入り、二郎に手伝ってもらいながら着替えた。折れた木刀は、折れた半分と、飛んで行った半分(二郎が取ってきてくれていた) を、丁寧に布でつつみこみ、わきに抱えた。
折れた木刀の先に、灰色の刃が伸びたことは不思議だけれど、あとで考えよう。
力のすべてを使い切ってしまった・・・ひたすら休みたかった。




