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こだま憑き  作者: ブルージャム
第二部 江戸時代編
20/73

鬼婆の剣  小細工

「木刀を替えさせてください」

 すぐさま、千代は見届け人に告げた。木刀が折れたら、試合に負けるだけでなく、相手にも怪我を負わせかねない。ひびを示して、危険のあることを訴えた。


「そちらは、よろしいかな?」

 見届け人が、清右ヱ門に尋ねる。

 まず、問題なく交換の要求をのむだろうと期待をこめた声だった。なんといっても、対戦している清右ヱ門が、一番危険なのだから。

「断る!戦場において、刀は自分の命!・・・命の替わりなど、ござらぬ!」

 清右ヱ門は、城内すべての部屋に聞こえるほどの声で怒鳴っている。

「ほんとうに、よろしいか? 」

 見届け人は困惑した表情で、重ねて尋ねる。

「くどい!」

 さらに、清右ヱ門は怒鳴った。


 千代は、唇を噛みしめた。

 このまま、試合をつづければ、木刀が折れかねない。折れれば、確実に千代の負けだ。木刀が半分の長さになってしまっては、勝ちは、おぼつかない。

 千代は、縄で区切られた試合場の見物席を見た。

 二郎と栄吉が、心配して身を乗りだしている。

 その隣の、幸四郎を見た。

 はっとした。

 幸四郎は、にやにやして、こちらを見ている。

 先日の、幸四郎が一緒に茶屋にはいっていたった柳なにがしの事が、頭に浮かんだ。

 まさか?

 向こうの道場が、幸四郎を、うちの道場にもぐりこませ、小細工を行ったのでは?

 千代は、木刀を握りしめた。食い入るように、木刀表面のひびを見つめる。このような汚いことをしてくるとは・・・。


「試合を再開する。両者、かまえて」

 見届け人は、気の毒そうな顔をしながら、千代と清左衛門に、試合開始をうながす。

「はじめ!」

 清右ヱ門が、打ちかかってきた。

 千代は、自分のなかの怒りが頂点に達し、それを越えたのを感じた。不思議なことに、頂点を超えると、逆に落ち着いてきた。

 最初から、このような卑怯なことをすると、先方は決めていたのだ。正々堂々と試合をする気などなかったのだ。 

 千代は、自分の内側、魂といってよいものの奥底から、何かがうごめいて、ゆっくりと立ち上がるのを感じた。立ち上がったそれは、千代の全身に重なっていった。  

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