藤吾と剣豪たち 無限
「父さん、いる?」
吉見冴は、父に声をかけた。
居間で一服していた冴の父が、冴の方に顔をむけた。
冴は、むずかしい顔をしながら、話を切り出した。
「ちょっと、考えたことがあるの」
「なんだ?」
冴の父は、湯のみをテーブルの上に置いた。
「世界と、″こだま″のこと……」
冴は腕組みをして、首をかすかにふった。長い髪が、首の動きを増幅したかのように、やはりかすかにゆれた。
「ひょっとしたら、この世界全体が、すでに滅んでいて、わたしたちのすべてが、滅ぶ前の世界の″こだま″かもしれない……そんなことを、ふと考えてしまったの」
冴は、深いため息をついた。
「それは、ないだろうな」
冴の父は、ゆっくりと考え込みながら答えた。そして、湯のみを持ちあげた。
「わしは、今、この湯のみを通して、湯の熱さを感じている。その実感がにせものだとは思えない。……また、思いたくもない」
冴の父は、湯のみの茶を、飲みほした。
「……おまえたちの年頃だと、そういうことまで考えるんだな。あまり、気に病むな。考えても、しかたのないことだ……」
冴が居間を去ってから、冴の父は、ひとりもの思いに沈んだ。
さっきは、冴には、気に病むなと、考えてもしかたのないことだと、言った。
われわれは、現実の存在だ。
そのはずだと思う。だが、今まで、地球上で死んだものたちの″こだま″が、どこかに、それも反響として、いくつも、存在している可能性はある。
恐竜をはじめとして、地球上の生物群は、何度も絶滅を繰りかえしてきた。
地球自体を魂の集合体だと考えると、地球の″こだま″が、目にはみえないが、宇宙空間にいくつも存在しているのではないか?
冴の父は、頭をふった。
冴に言ったことは、自戒をこめて言ったことだった。そのはずなのに、また、思考の迷いにとらわれてしまった。
やれやれ、少し休まねばな……。
冴の父は、そのまま目を閉じた。
冴の父は、夢を見た。
夢のなかで、冴の父は、空を見あげていた。
見上げたさき、はるか頭上に、大きな青い地球があった。さらに、その向こうにひとまわり小さい地球が、そのさらに向こうにも、さらにひとまわり小さい地球があった、そして、さらにその向こうにも……。
――無限に続く地球の反響。
冴の父は、起きてからも夢で観たことを、はっきりと覚えていた。が、弟子にも、娘にも、それについて話そうとは思わなかった。
<了>




