藤吾と剣豪たち 美雪とこだま
冴の父が呼んだ救急車で、武は運ばれていった。
武の母にも連絡し、病院で落ちあうことにした。
「よかった」
美雪と冴と藤吾は、並んで武を見送った。今までの″こだま″が離れたひとたちと、ほぼ同じ状態だった。
まず、心配ないだろう。
あとは、のんびり休んで、回復してゆけばよい。
これで、やっと、普通の生活、日常に戻れる。
藤吾は、ほっとした気持ちで、道場を出た。美雪と冴は、なぜか眉を寄せ、考え込みながら、藤吾の横を歩いている。
冴と別れて、美雪の家の前まで来た。疲れが出たのか、身体が熱っぽかった。休んで、疲労をとらないと……美雪も疲れているだろうな、と美雪の顔を見た。
「ねえ。藤ちゃん……」
美雪は、宙をにらみながら、言った。
「”こだま”のことを考えているとね」
美雪は、息をはいた。
「ちょっと、ゾッとしてしまうことを考えてしまうの」
「なに?」
藤吾が聞くと、
「”こだま”は、冴ちゃんたちがやっている儀式で呼び出されるだけじゃないってこと……。藤ちゃんの、ふたつめの”こだま”のように、もとから在るものが、いるってことは」
美雪は、腕組みをした両手に、さらに力を入れた。肩先にも、ぐっと力をこめている。
「わたしたちのまわりにも、今この瞬間、憑く対象を探している”こだま”が、ただよっているかもしれない……」
藤吾は、あたりを見回した。そういえば、そうかもしれない。目には見えないが、たくさんの"こだま"が、いるのかもしれない。 ため息がでた。
もう一生、安心して道を歩くことができないかもしれないのだ。
「ねえ、藤ちゃん!」
美雪は、藤吾の顔をのぞきこんだ。
「なくなったご先祖様たちが、まわりにいるとしたら、なんだか楽しくなってくるね」
楽しいって……。
美雪の楽天的な様子に、藤吾は笑ってしまった。″こだま″たちが皆、悪さをするわけではないし、考えようによっては、たちの悪い生身の人間より、ましかもしれない。
藤吾のうちの前まで来た。
「じゃあ、あした!」
美雪は、元気よく声をはりあげた。
「おう!」
藤吾も、声をはりあげた。
美雪が数軒先の自分のうちに入るまで、見送った。
見あげると、透きとおった青空。端のほうに、傾きはじめた陽の光でかすかに赤く染まった、数本のたなびく雲が見えた。
藤吾の内側のどこか深いところで、誰かが、気持ちよさげに笑っていた。
藤吾は、かばんの持ち手を握りなおすと、うちに入った。めずらしくズボンのベルトと背中がくっつきそうなくらい、腹が減っていた。




