05.連休も大さわぎ その23
「んじゃ、家長の将仁さんから、一言お願いしまっす」
全員が席についたところで、鏡介がいきなりそんなことを言ってきた。
「なんだよ。こういう時ばっかり」
なんて言いながら、俺はビールのグラスを手にして席を立った。なんか俺も乗っちゃってるな。
「えーと、今日は、新しいメンバーも加わったんで、それを記念して」
「コラー長いぞー」
俺が喋り始めると、速攻でヒビキがヤジを入れる。やるんじゃないかとは思ったんだが。
「長い挨拶は嫌われるし、料理が冷めるわよ」
トーンはまったく違うがレイカがツッコミを入れてきた。そんな風に言われると聞き流しちゃダメな気がしたので、手早く切り上げることにする。
「んじゃ、今日は目いっぱい飲んで食べて親交を深めましょう!乾杯!」
「「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」
俺の掛け声とともに、10個のグラスが掲げられる。大学に入ったときのコンパって、こんな感じなんだろうか・・・・・・・って、年齢幅が広すぎるか。
調子に乗っちゃって、ビールを一気してしまう。
「ぷはーっ、んまいっ!」
なんかそんなことが口から出てしまう。おっさんか、俺は。
ふと見ると、ケイがビールが入ったグラスを両手で持ったままで、じーっと俺を見上げている。
「ねえ、お兄ちゃん・・・・・・お酒って、おいしいの?」
んで、そんなことを聞いてくる。そういえば、俺と常盤さん以外は酒を飲むのも初めてなんじゃないかなーと思ったが、飲酒に抵抗を持っていそうな奴はほかに見当たらない。鏡介なんかは率先して酒飲んでいるし、ヒビキとかレイカとかいった誰が見ても大人な連中はすでに2杯目に行っているし。
・・・・・・もしかして、俺が飲めるからなんだろうか。
「あんまり無理しなくていいぞ」
酔っ払いにしたくはないので、勧めるのはそのへんにしておく。
「どうぞ」
「お、サンキュ」
そうしていると、空になった俺のグラスにテルミが2杯目を注いでくれる。このへんの気配りはさすがだ、と思っていると、どうやら自分のらしいグラスに常盤さんからの酌を受けているところだった。
そして、ふと視線を戻すと、意を決したらしいケイが、目をぎゅっとつぶってグラスを傾けたところだった。
「んっ・・・・・・んーーーっ!」
とたんに、ケイは今まで見たことがないような渋い顔になった。大きな目が、泣きそうに潤んでいる。
そして、その一口を懸命になって飲み込んだあと、こう叫んだ。
「おいしくなーいっ!」
なんか見たとおりの反応をしてくれるケイが、いつも以上にかわいく見えてしまう。
「無理すんじゃないぞ」
そんなケイの頭を撫でてやる。だが。
「一気行きます!」
やにわに立ち上がったヒビキが、片手にビール瓶を持って立ち上がると、素手でその栓を開け、ラッパのみの体制に入った。
いつから、うちはそんな体育会系になったんだろうか。
「おー、ヒビキ、いい飲みっぷりだな」
「ぷはっ、ま、あたしにとっちゃ、酒も飯も燃料だもんな」
あっという間にビールが空になり、わっと歓声が上がった。
その様子をじっと見ていたケイが、自分のグラスに視線を向ける。そして、何を思ったのか、そのまま一気してしまったのだ。
「ぶあぁーっ」
飲み干した直後、ケイらしくない野太い声が吐き出される。
「だ、大丈夫か?」
「あ、お、おにいちゃぁん、ケイ、がんばったよぉ」
くてっとなったケイが俺にもたれかかる。その顔色は、早くもほんのり桜色になっていた。良かった、とりあえず悪酔いはしていないみたいだ。
「さっきも言ったけど、無理すんなよ。気持ち悪くなったら言えよ?」
俺の言葉に、ケイはこくこくと頷く。
改めてまわりを見回すと、それぞれがそれなりに盛り上がっていた。
「レイカ、燗をつけたものはないのか?」
「燗をつけるのは邪道よ。日本酒の味わいは冷で飲んでこそ判るものだわ」
「へえぇ、そうなんですかぁ、さすがレイカさんですぅ」
こっちではレイカがシデンとクリン相手に日本酒論をぶっているし。
「Hmm, ミーはすこーしdrunkデース」
「アイヤー、バレンシアサン、お酒弱いアルか?」
「お前、実は虚弱体質なんじゃないか?」
あっちではバレンシアと紅娘とヒビキの、ぱっと見外国人なトリオで喋っているし。
「常盤様、私たちはこれからどうしていくべきなのでしょうか?」
「そうですね、私は、早く将仁さんに遺産相続をして、肩の荷を降ろさせてもらいたいのですが」
「ですが、将仁さんがイヤだという気持ちも、少し判るでしょう」
そっちでは常盤さんとテルミがなにやら話し込んでいる。そういえば、常盤さんは俺に遺産相続させた後どうしたいんだろう、何も考えてないってことはないだろうし。
「あれ?ケイちゃん、どしたの?」
そして、妙に陽気になった鏡介が、とろんとした目つきになったケイの顔を覗き込んだ。
「ちょっとビールが効いたみたいだ」
「うぅぅ、おにぃちゃぁん、なんだかおなかが変な感じだよぉ」
なんか色っぽいその口調に、支えているこっちがちょっと驚いてしまう。
「悪い鏡介、ちょっと預かってくれ、トイレ行ってくる」
「りょーかいっす」
ぐったりしたケイを預けると、鏡介はおどけた敬礼を返した。
どうも、作者です。
未成年をいっぱい巻き込んでの酒宴がはじまってしまいました。
読者の方々は、お酒は二十歳になってからにしましょうね。
さて、次回ですが。トイレから戻った主人公を、カオスが襲います。
どんなカオスなのでしょうか?
次回を乞うご期待!