05.連休も大さわぎ その20
開いているドアの隙間から中をのぞく。隙間と言っても顔半分ぐらいあるので、それほど注意しなくても中をうかがうことは出来る。
そしてその部屋の中で、見覚えのある金髪が、応接用のソファにじーっと座っているのが見えた。
「なにやってんだ、バレンシア?」
「Oh, Mashter. Gurro everrhyng.」
そう、それがバレンシアだった。
まあバレンシアは今や常盤さんの秘書みたいなものだから、ここにいてもおかしくない。が、その光景はちょっとおかしかった。
バレンシアは、なぜか何かのケーブルを口に咥えていたのだ。そしてバレンシアが咥えているケーブルの反対側は、壁にある電話用のモジュラージャックに繋がっていた。
要は、電話線を咥えているのだ。
「何やっているんだ、お前は?」
「見て、わかやラーイれーふか?」
そんなもんを咥えながら喋っているので、滑舌が悪いのはしょうがない。
「電話線を咥えているのは判るけど、なんでそんなことしているんだよ」
「Oh, shorry.ミーは、stock prifのtrengoを、heckひていたレーフ」
「・・・・・・なんだそりゃ」
「Yapaneseれ言えヴァ、かヴかのろうこうレーフ」
「・・・・・・とにかく、ケーブル抜いて喋れ。何言ってるか判らん」
元々日本語と英語をまぜこぜにしたバレンシアの喋りは聞き取りにくい。それに加えてコードなんぞ咥えられていては、何を言っているのか本当に判らん。
バレンシアの咥えているケーブルをくいくいと引っ張る。すると、バレンシアが口を開けたので、開放された電話線が俺の手の中に残った。
「で、何をしてたんだ?」
「んー、さっきもsayしたデースけど、stock price(株価)の動向をwatchingしていたデース」
「株ぅ?」
うちにそんなもんが関係あるか?と思ったんだが、よく聞いてみると常盤さんが持っている株に関係するものらしい。あのアナクロな常盤さんが株を持っているとはちょっと驚きだが、株で大もうけなんて話も聞いたことがあるので、ちょっとだけ、関心がある。
でも、それでは電話線を咥える理由の答えにはならない。
「それハー、internetにplug-inするためデース」
その疑問をぶつけたところ、帰ってきたのはそんな答えだった。
よく話を聞いてみると、バレンシアは電話線を使ってインターネットに接続しているんだそうだ。それがなんで咥えることになるのかはちょっと疑問だが、今目の前にいるバレンシアという女が元々ノートパソコンだったことを考えると些細なことのような気もする。
それになにより。
「インターネットって、今繋がっているのか?」
「No、nowは、connectしてナイデス。Telephone wireを、set offしているデスから」
バレンシアは、俺の質問に対しさっきまで咥えていたコードをぷらぷらさせながら答える。
「Reminds me(そういえば)、MasterはInternetにinterested(興味を持つ)しているデスよね?」
と、思い出したかのようにバレンシアはそんなことを言って、コードのコネクタをこっちに向けた。
「ん、まあ、興味はあるけど」
「Then、Masterもinternetをenjoyしないデスか?」
「できるのか?」
「Yes!Leave it to me(お任せください) , Master!」
俺の問いかけに、電話線をぐるぐると回しながら、バレンシアは自信満々に答えた。
どうも、作者です。
今時ダイヤルアップはないだろうと思われた方。
仰るとおりです。その通りなのですが、引っ越して1日もたっていないので、そのへんの手続きが出来ていないのですよ。
というわけで、見逃してください。
次回、バレンシアとネットサーフィン、が普通に出来るわけも無く。
さて何が起きるのか。
次回を乞うご期待!