05.連休も大さわぎ その18
帰りは、のんびりと歩いて帰ることにした。一人だったら遠慮なく走って帰るところだが、俺一人ならともかくそれだけの体力がないことが判明したシデンや紅娘をさらに走らせるのはさすがにかわいそうなので、二人に合わせることにした。・・・・・・よく考えたら、シデンは成層圏へ飛んでいくだけの体力があるはずなんだが。
ちゃっかりしたもので、歩いていくと聞いた瞬間、ケイも歩くと言い出し、結局みんなで歩いて帰ることになったのだ。
「あっ、スイーツが有名な喫茶店はっけーん!」
と、そのケイが声を上げた。えっ、と思った瞬間、俺より先にモノたちが反応した。
「ワタシ、杏仁豆腐が食べたいアルー!」
「ケイよ、その店に餡蜜はあるのか?」
耳聡いというか抜け目がないというか、喫茶店という言葉に紅娘もシデンも反応して勝手なことを口にしている。こいつら、確か走りこみのために外に出た俺についてきただけだったはずじゃなかったか?
でもまあ、仲がいいことはいいことだ。特に紅娘は他のメンバーとちがってうちに来たのすら今日だから、こうして仲良くやってくれているのを見るとなんか安心するし、それに話題がお菓子のことだなんてすごくかわいいじゃないか。
ちょっと暖かい気持ちになってその三人娘を眺めていると、なぜか彼女らは集まって小声でなにやら相談?をし始めた。
何の相談をしているんだろう、ちょっと興味があったので、聞こえてくるのを聞くのはいいだろうと自分に言い訳をして聞き耳を立ててみた。
「なにぃ!?そ、そんなこと、我が口にするのか!?」
「だって行くって言わせなきゃダメじゃない」
「し、しかしだな」
「ワタシがそんなコト言うの、ちょと図々しくないアルか?」
「ないってばぁ、ほらみんなでがんばろ?」
なんだなんだ?何を相談しているんだ?
と訝しがっていると、いつのまにかその3人に囲まれていた。
「わ!?」
そして、なぜか3人いっせいに俺のジャージを掴んできた。
「ねーねーおにいちゃぁん、あそこ行こうよぉ」
ケイがジャージの袖をぐいぐいとひっぱる。見るとそっちのほうに喫茶店らしい店がある。あれが、さっき「はっけーん」とか言っていた店だろうか。
だが、次の瞬間、俺はふき出しそうになってしまった。
「お、おにーちゃん、シデンね、あ、餡蜜が、食べたいのっ!」
いつも偉そうにふんぞり返り、そして腕っ節も男顔負けのあのシデンが、上目遣いアンドかわいい言葉遣いで、餡蜜をねだる姿を見てしまったからだ。
やっている本人も相当恥ずかしいらしく顔が真っ赤だが、なんかぐらっと来てしまう。これがギャップの威力という奴だろうか。
「オニちゃ〜ん、かーいい妹のお願いアルぅ、聞いてちょうだいアル〜」
驚いて硬直しているところに、後ろからぴょいと別の子が飛びついてきた。
思わずそっちを見ると、にっこにこ顔の紅娘が俺の首根っこに腕を回して抱きついていた。その笑顔に加え、背中になんとも形容しがたい軟らかい感触があたっている。
うーん、紅娘のやつ、舌足らずなのに発育がいいな。じゃなくて。
なんでみんな俺をお兄ちゃんと呼ぶ。ぱっと見の容姿は、3人とも中学生ぐらいに見えるからおかしくはないが、でもケイはともかくシデンも紅娘も俺のことそんな風に呼んだことないだろうが。
「「「ねぇ〜、いいでしょぉ〜?」」」
うっ、こ、こいつらは〜っ。そろって上目遣いしやがって。か、かわいいじゃないか。
はっ、こいつら、さっきケイに、入れ知恵されたな。
「「「おにいちゃ〜ん」」」
うぬぬぬぬうっ!な、なんという破壊力っ!
「わ、わーかったわかった!餡蜜でもケーキでも食え!」
く、屈してしまった。無念。
「やったぁー!」
「ばんざーいっばんざーいっばんざぁーーいっ!」
「杏仁豆腐たくさんたくさん食べるアルね〜っ!」
がっくりと力尽きた俺と対照的に、3人娘は弾けたように大喜びしている。
しかし、予想外の出費になったが・・・・・・でもまあ、あいつらの満面の笑顔が見られたから、いいか。とあきらめることにした。
どうも、作者です。
年少組がみんなして主人公にたかっておりますw
でも、こんなふうに頼られるのもありじゃないかと思います。
さて、これから帰るのですが。
帰ったら帰ったでまた何かありそうです。
では、次回も乞うご期待!