05.連休も大さわぎ その16
さて、ナンパマンズに手を挙げられたわけだが、それは結果としてあっちに凶となった。
なにしろ、空中で一回転して頭から落とされる奴、掌底喰らって吹っ飛ばされる奴、見事な飛び回し蹴りを喰らってひっくり返る奴などなど、数どころかいろいろなところで劣っている相手に一方的にフルボッコにされたからだ。と言っても俺がやっているのではない。俺も一応心得がないわけではないんだが、俺が動くより先に、まるで打ち合わせていたかのようにシデンと紅娘が動いていた。
女に手を上げる時点でまあろくな奴じゃないんだが、その女の子2人に、見ているだけで気の毒になるほど一方的にフルボッコにされるという屈辱まで受けることになったんだから、当人たちにとってはシャレにならん事態だろうな。
「お、覚えてやがれ!」
挙句の果てには、もうカビが生えるどころか土に還りそうなベタな捨て台詞を残してそいつらは逃げ出してしまった。
「あううぅ、怖かったよぅ」
心底ほっとした顔をして、ケイが俺にしがみつく。
「一昨日来るが良い、痴れ者め!」
売り言葉に買い言葉でもないんだろうが、シデンが一歩踏み出し、腕組みをしてふん反りがえりながらそう言い放つ。
「そんなコト覚えてるホド、私は物好きナイアル。ね」
一方の紅娘は、可愛い仕草などしてこっちに同意を求めてくる。しかし、「ね」なんて言われても、俺にはそんなもん判らんぞ。
「でも、紅娘ちゃんって、強いんだね〜。ケイ、あこがれちゃうなぁ」
その紅娘に、ケイが羨望のまなざしを向ける。
「あれは、中国拳法か?中々に興味深いものを見せてもらった」
そして、シデンも紅娘に珍しく賞賛(?)の声をかける。
確かに、紅娘の動きは只者ではなかった。初対面時に見せた肘打ちは、伊達ではなかったということ、なんだろうか。
しかし、中国人で拳法使いで料理人とは、ますますもってベタな奴だな。
「それに比べ、先日の輩といい今の連中といい、昨今の日本男児のなんと軟弱になったことよ。嘆かわしい、あぁ嘆かわしいっ」
ほうほうの体で逃げていった連中を見て、シデンが大げさに嘆いて見せる。
おまえはどこの東郷平八郎のじいさんだ、と言いそうになって、ふとあることを思い出した。
「ところで、その先日ってのは、あれか?」
あれ、というのは当然、一昨日の昼の話だ。不動産に行っていた俺は何者かに尾けられていた。結局その連中は捕まえられなかったんだが、シデンたちはその連中をとっ捕まえたんだ。
「どうしたのだ、いきなり。ははぁん、そうか、判ったぞ。この見目麗しき乙女が、いつどこの無礼者の毒牙にかからぬかと心配しておるのだな」
しかし、聞こうと思ったところでそのシデンが惚けた先手を打ってくる。
「何言ってんだ、触れた相手を片っ端から吹っ飛ばす機雷みたいな奴のくせに。俺が聞きたいのは、一昨日の話だ」
「なんだ、つまらん」
と言いながらもそんなつまらなそうな顔はしていない。やっぱ冗談だったみたいだが、もしそれに乗ったらどういう反応をしただろうか、ちょっと惜しかった。
とりあえず立ち話もなんなので、2人を手近なベンチに座らせると俺もその横に腰掛ける。
「はいお兄ちゃん、スポーツドリンク」
「お、サンクス、気が利くな」
俺の横に座ったケイが、水滴のびっしりついたペットボトルを差し出してくる。ペットボトルを受け取り、かわりに頭をなでてやると、ケイはさっきとうってかわって満面の笑みを浮かべた。
「じぃーーーーーっ」
「じぃーーーーーっ」
キャップを開けて中身を胃袋に流し込んでいると、シデンと紅娘が恨めしそうな顔をしてこっちを見ているのが見えた。
「なんだよ、欲しいのか?」
「ち、違うわっ!」
シデンはぷいっと顔を背ける。
一方の紅娘は、無言ですっくと立ち上がると、なぜか俺の前に回ってきた。
そして、ひょいと俺の飲みかけのペットボトルを取り上げて、物珍しそうにそれを眺めながらこんなことを口にした。
「将仁サン、ワタシ、もっと効率いい回復剤知ってるのコトよ?」
回復剤って、また大げさな。これはただの水分補給だって。と言おうと思ったんだが。
「回復剤ぃ?」
ちょっとだけ興味を持ってしまった。
「そうアルよ。中国四千年の漢方の集大成、こぉんな水なんか目じゃないアルよぅ?」
すると、紅娘は俺の目の前にそのペットボトルをぶらぶらさせながら顔を近づける。
「貴様」
「あいた!」
と、そのペットボトルを持った手の手首を、シデンの手が伸びて掴んだ。どうやらそれが筋のあたりを押さえていたらしく、紅娘の手からまだ中身の入っているペットボトルが俺の前に落ちてきた。
「何するアル!」
「変な色気を出すな!上官が変な気を起こしたらどうする!」
変な色気って、なんだよそりゃ。
「もう、二人ともケンカしちゃダメだよぅ」
その二人の間にケイが手を伸ばす。おかげで俺の目の前で女の子の腕が立体交差する。
「こらこらこら、俺の上で取っ組み合いすんな、人が見てる」
実際はそうでもなかったが、そう言うとそれぞれの手がぱっと離れていった。
どうも、作者です。
前回に続いて今回も主人公はなにもしていませんw
しかし、ナンパしていて腕ずくで退けられるというのは、男としてやっぱり悲しいもんでしょうなw
さて。主人公はシデンに何か話しかけていしたが、何を聞こうとしたのでしょうか?
では、次回を乞うご期待!




