01.それは1本の電話から始まった その9
「そうなんですか。ケイさんって、多機能なのですね」
「えへへーっ、でもワンセグはついてないから、テルミお姉ちゃんのまねはできないけどね」
「うふふ、でも、大画面の迫力と映像の美しさこそが、プラズマテレビの最大の売りですから。これだけは、譲れないでしょう」
「テレビねぇ。うちのテレビには音声操作機能は無かったはずなんだが」
「それは将仁さんのおかげでしょう。おかげさまで、他にも嬉しい新機能が追加されましたし」
「新機能?なになに?」
「ケイさんも経験していますでしょう。歩くこと、手を使うこと、そして何より、こうして将仁さんとお話ができること。何よりも素晴らしい機能でしょう?」
「あ、そっか。今まではどんなにお話したくても何もできなかったんだもんね」
「なんだ、話なんかしたかったのか?」
「うんうん。すっごくしたかった。他にもお話したい子っていっぱいいると思うよ?」
そう言われて、思わず部屋の中をぐるっと見回してしまう。
「じゃあ、ベッドと話ができたら、「俺の上で寝るなーっ、重いじゃないかーっ!」とか言われるのかな」
「あ、それあるかも。本さんだったら「もっとよく読め」とか♪」
「冷蔵庫さんだったら「詰めすぎはダメよ」とかおっしゃるのでしょうね」
「いやぁ、それは無いだろ。俺は一人暮らしだから、冷蔵庫あんまり使ってないし」
「では、「もっと活用して」と言われるのでしょうね。詰めすぎも、少なすぎも、電気効率が良くないと言いますでしょう」
「電気か・・・・・・あれ?そういえば、テルミって今は何で動いてんだ?ケイは携帯だから中にバッテリーが入っているけど。コンセントとか無さそうだし」
「あら、そういえば何でしょうね?人の姿になっていますから、やはり食事なのでしょうか?」
ぐうぅぅぅ。
そのとき、ものすごく良いタイミングで、俺の腹の虫が鳴いた。忘れていたが、今日は色々あって飯を食ってないんだった。
「え?今の音、何?」
「あ、もしかして将仁さん、まだご飯食べていないのでしょう?」
テルミにずばり言い当てられ、ちょっと恥ずかしくなる。
「まだ鳴るのかな?」
何を思ったか、ケイが俺の腹に耳を当てる。
「わ、こらなにすんだよっ!?」
「やーん、ケイはお兄ちゃんのおなかの音が聞きたいのー!」
「聞いてどうするんだそんなの!は、恥ずかしいからやめろって!」
あわてて引っぺがすが、ケイはじたばたと暴れて抵抗する。いくら元が携帯電話だからって言っても、今はぷにぷにした感触のある女の子の姿だ。そんなのに腹に耳当てられたら変な気分になってしまう。
「おい、ちょっと、見てないで助けてくれ、こいつのこと押さえてくれ」
正座してにこにこしながら俺たちを見ているテルミに助けを求めてしまう。
「じゃあ、私、何か作ってきましょう」
すると、くいっと眼鏡を上げたテルミは、その笑顔を崩さないまま立ち上がった。
「へっ、作るって?」
「ですから、軽く食することが出来るものをでしょう。伊達にテレビをしていないこと、見せて差し上げましょう」
「ちょ、ちょっと待て、テレビと料理とどこが関係あるんだ」
「あら、料理番組というものが、ありますでしょう?心配は無用でしょう。それより、冷蔵庫の中を改めさせてもらってもよろしいでしょうか?」
テレビの料理番組って、時間を短縮しているんじゃなかったっけ?と思っているうちにテルミはキッチンに歩いていく。いよいよ本当のメイドさんみたいだ。
そして、俺はケイと二人、居間に取り残された。