05.連休も大さわぎ その14
予想より時間を多めにかけて、俺たちは総合運動公園に到着した。
「はーっ、はーっ、はーっ・・・・・・」
「ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ・・・・・・」
後ろから、呼吸困難なんじゃないかと思うほどの息切れの声がする。振り返ると、深緑の服のシデンと赤い服の紅娘が、その公園の入り口で息を切らしてうつむいている。
「大丈夫か、お前ら」
その様子があまりにつらそうなので、思わずそう聞いてしまう。俺としては結構ペースを落としたつもりだったんだが、それでも女の子の足にはきつかったみたいだ。
まあ、シデンはえらくかさばる和服を着ているし、紅娘に至ってはでっかい中華鍋なんかを背負っているんだから、長距離走るのには向いていないんだろうな。
と、その二人がほんの少し顔を上げて、俺のほうに手を伸ばしてきた。ちょっとゾンビっぽいその動きにひるんでいると、その2人分4つの手が俺のジャージを掴み、そして二人はそのまま崩れてしまった。
なんか、振り払うのもかわいそうなので、そのままにしておいたものの、このままでは動けない。
ポケットに手を突っ込み、携帯電話を取り出して開く。
「ケイ」
「なに、お兄ちゃん?」
携帯の画面に、ぱっとケイの顔が出る。
「悪いが、人の姿に戻ってくれ」
「え、なにかあったの?」
「ん、ちょっとな」
ちょっと心配そうな顔をしたケイにも判るように、携帯の画面をシデンと紅娘に向ける。
「うわ、どうしたの二人とも!?」
「走ってついてきたはいいんだが、体力の限界みたいだ。悪いがケイ、そこの自販機で、何か飲み物でも買ってきてやってくれ」
「うんわかった!」
言うが早いか、携帯電話が俺の手の中からぴょんと飛び出し、空中で光に包まれると、ケイの姿になって着地した。
そして、俺から財布を預かると、すたたたっと手近な自販機のところまで行き、ペットボトル入りのお茶とウーロン茶を手にして戻ってきた。
「はい、シデンちゃん、紅娘ちゃん」
ケイがそのペットボトルを差し出すと、二人ともひったくるようにそれを取り、一気に飲み干した。色気も何にも無い飲みっぷりが、二人の消耗ぶりを示している。
「はぁ、はぁ、じょ、上官、なぜ、貴様は、平然と・・・・・・っ」
「んも、頭はフラフラ、目はチカチカ、足はガクガクねぇ」
やっと手を離した二人を手近なベンチまで引っ張っていき、座らせる。いくらなんでも、あのまま地べたに座らせておくわけにはいくまい。
「しゃーねーな、お前らはしばらくここで休んでろ。俺はもうちょっと走ってくる。ケイ、こいつらの相手をしてやってくれ」
「はぁ、はぁ、ま、待て、待つのだ、上官、ご、護衛を、置いて、どこへ」
ケイが返事する前に、苦しそうに顔をしかめながら、シデンがむんずと俺のジャージを掴む。
「そんな泣きそうな顔すんなよ、そこの競技場のまわりをぐるっと一周してくるだけだ」
「そ、そうか」
そんな遠くに行かないと判ったからか、シデンがほっとした表情で手を下ろした。
「ふぅ、ふぅ、ま、マシャヒトしゃぁん、ワラヒのこと、おいてかえたら、怨むアルよ〜」
「だぁからそんなことしねぇって。俺を信じろよ」
「そうだよぅ、お兄ちゃんがそう言うんだから信じなきゃ」
ケイは俺に助け舟を出してくれる。
「えらいな、ケイは」
「えへへ、褒められちゃった」
ケイの頭をなでて一言ほめてやると、ケイは嬉しそうにニコニコする。
シデンと紅娘のほうを見ると、肩で息をしながらも恨めしそうな目でじーっとこっちを見ている。そんなふうに目で訴えられてもどうしたらいいのか困るんだが。
ふと気がついて周りを見ると、さっきより人影が増えている。昼飯の腹ごなしといったところだろうか、ジャージ姿のやつとか、犬の散歩をしている奴とかだ。
そして、そのうち何人かは、物珍しそうにこっちを見ている。
連れてこなけりゃ良かった、と思ったが、これは口にしてはいけないよな。
「じゃ、行って来る。ケイ、タイムを計ってくれ」
なんかそこにいたたまれなくなった俺は、そう言い残して逃げるようにそこから走り出した。
どうも、作者です。
どうやら擬人化たちは、特殊なところ以外は普通のようです。
でもまあ、擬「人」なんですから、人間くさいところがあっても良いかとw
さて、おいてけぼりになった3人娘ですが、主人公が帰って来るまでに復活するのでしょうか?
次回も乞うご期待!