05.連休も大さわぎ その13
「何をしておるのだ」
「うわわわっ!?」
「わわわわわっ」
突然、別の声が背後からした。あまりに突然だったので携帯を、もとい、ケイを取り落としそうになった。ケイのほうもびっくりしたらしく、携帯形状のまま変な声をあげる。
なんとかキャッチして振り向くと、いつのまに来たのか、シデンが仁王立ちしていた。
「お、おまえ、いつの間に」
「うむ、ケイがその姿になって上官と話をしている頃か」
ってことは、ケイとのやり取りを聞かれたということか。これは恥ずかしいぞ。
「それで、上官。貴様、どこかに外出でもするのか?」
上官という呼び方と貴様という呼び方は矛盾しているような気がするが、突っ込むとすねてごねる光景が浮かぶのであえて聞き流すことにする。
「ちょっと走りこみだって」
「走る?どこへ行くというのだ?」
俺に先んじて、自動的に開いたケイが答えると、シデンはこっちに顔を向けた。どこと言われても、ただの走りこみだから場所の目標なんぞないと答えると、シデンは今度は顎に手を当て考えるようなしぐさをした。
「ならば我も随行してやろう」
そして、そのポーズを解除すると、シデンは突然そう申し出てきた。
「えぇ?」
「なんだその顔は。この我が、わざわざ貴様の身を案じて護衛してやろうというのだ。本来であれば感謝してもらっても良いぐらいだぞ」
偉そうな口ぶりは今に始まったことではないので聞き流すとして。
「護衛だなんてそんなおおげさな」
どこぞのVIPじゃあるまいし、こんな一介の高校生を襲ったってたかが知れてるってもんだ。と言おうとしたところ、シデンは呆れたような仕草をしながらこちらを見た。
「このうつけ者。一昨日、己の身に起きたことをもう忘れたか?」
「一昨日・・・・・・?」
うつけ者とはずいぶんな言い方だが、実は最近非現実的なことが色々とまわりでありすぎて、覚えきれていないのが現状だ。
「ほらぁ、あの時、ケイが変な電話を聞いちゃったときだよ」
言われて、やっと思い出した。確かあの時は、俺とケイと常盤さんで不動産屋に行って、ケイが何処かからかけられた電話を受信したんだっけな。
そういえば、シデンは別のグループで行動していたな、そこで怪しい奴を捕まえて、締め上げたとか言っていた。あの時は、うちのモノたちの超常な能力に圧倒されて話を聞きそびれたが、聞きだすいいタイミングかもしれない。
「言っておくけどな、ランニングだぜ。手加減しねぇからな」
「ふっ、望むところだ」
「あれ、将仁サン、シデンサン、こんなところで何してるアル?」
外へ行くためにスニーカーを履いていると、今度は紅娘が現れた。なんかよく人が来るな。
「ああ、ちょっと腹ごなしをしようかと思って」
「それじゃワタシも行くアル!」
「なにいっ!?」
俺が反応する前に、シデンがすごいスピードで反応した。なんか知らんが、いきなり顔を上げると、紅娘に掴みかかって行ったのだ。
「貴様、今日来たばかりだというのに生意気な奴め!我は認めぬ、認めぬぞぉっ!」
「アイヤー何するアルかー!ワタシだて将仁サンに呼ばれたアル、アナタの言うことお門違いのコトね!」
とたんに取っ組み合いが始まる。二人とも武術の心得がある(らしい)から、お互いに掴みかかる手をいなし合って勝負がつかない。
「ねえお兄ちゃん、止めないの?」
その二人を尻目にスニーカーを履きなおす俺を見て、ケイが声をかける。
「あれを見て、止めて聞くと思うか?」
だが、徐々に加速する二人の手の取り合いを見せてからそう聞き返すと、ケイはちょっと困ったような顔をしながら携帯画面のむこうで首を左右に振った。
「先行ってるぞ」
しかし、そのまま黙って行くのも悪いような気がしたので、家を出る前に、取っ組み合いをする二人にそう声をかけた。
すると、効果は覿面だったようで、庭先で準備運動をしているとその2人が先を争うように家の中から飛び出して来た。
「こら上官っ!何故先に行ってしまうのだ、護衛の意味がないではないか!」
「将仁サン、ワタシのコト置いていくのダメダメアルよ!」
そして、息もぴったりに俺に文句を言い、同じタイミングで互いににらみ合う。なんつーか、似てるなこいつら。
「ケイ、ナビのほう頼むわ」
その隙に、ケイに道案内を頼む。
「え?うん、いいけど、どこに行くの?」
「近くに総合運動公園ってのがあるから、そこまでだ」
「総合運動公園・・・・・・って、ええっ!?そんなところまで走って行くの!?」
妙にケイが驚く。はて、地図で見た限りはそんな遠くなかったと思うんだが。
「そんな遠いか?」
「だって5キロぐらいあるよ?」
ランニングだと、道の込み具合とかも考えて20分ぐらいか?そんなに目くじら立てるほどじゃないだろう。
だが、こいつらにとってはそうではないようだ。
「な、なあ上官、途中で飛んでいいか?」
「あっ、シデンサンずるいアル!ワタシが飛べないのコト知って!」
そんな自信が無いなら来なきゃいいのに、とは言ったらかわいそうか。この2人は俺より背が低い、つまりは足も短いからその分早く動かさなけりゃならないんだ。
しょうがない、ちょっとペースを落としてやるか。そんなことを思いながら、俺は走りはじめた。
どうも、作者です。
トラブルメーカーのシデンと、売られた喧嘩は買う紅娘がついてきてしまいました。
さて、ランニングは無事にできるのでしょうか?
それでは次回を、乞うご期待!