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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
05.連休も大さわぎ
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05.連休も大さわぎ その11

「シデン、おまえって奴はどうしてそう攻撃的なんだよ、同じモノ同士なんだからよ、仲良くできないのか?」

「我は悪くない!仕掛けてきたのはむこうではないか!」

「それ以前の問題だろ、他人の失敗を見て喜ぶなんて最低だぜ」

「うるさい!上官、貴様が、貴様が節操がないから!」

「なんだと!?」

口数が減らないシデンに、ついこっちも声を荒げてしまう。

「お兄ちゃん、もういいんじゃないかな、シデンちゃんのこと許してあげても」

だが、俺たちへの仲裁は意外なところからやってきた。

「ケイ?」

「シデンちゃん、お兄ちゃんにかまってほしくて、すねてるだけなんだよ。人の姿になって、みんなお兄ちゃんにかまってもらえるようになったけど、シデンちゃんはかまってもらえなくなったんだもん」

ケイのその言葉は、俺の心にぐさりと突き刺さった。言われてみれば確かに、ラジコンのときは毎日のように手にしていたのに、人の姿となったシデンに対してはちょっと距離を取っていたような気がする。

振り返ってみると、真っ赤になったシデンが、泣きたいのか怒りたいのか混乱したような顔をして、黙って立っていた。

「・・・・・・そうか」

俺がすっとそっちに手を伸ばすと、シデンはちょっと体を縮こまらせる。どうやら引っ叩かれると思ったようだが、女の子を叩くのは俺も嫌だ。

「悪かったな、気付いてやれなくて」

その手を、シデンの頭の上にそっと乗せ、撫でてやる。ケイがすねた時によくやるアレだ。

シデンの場合、頭のてっぺんで髪を束ねているので少々やりづらい。なんてなことを思っていると、妙にシデンがおとなしい。どうしたんだろうか、と思ってシデンのほうを見ると、さっきと違って思いっきり驚いたように目をぱちくりさせていた。

どうしたんだろう。昨日のバレンシアじゃないが、オーバーヒートでもしたんだろうか。

「あ・・・・・・あ・・・・・・あ・・・・・・」

心配になる俺の目の前で、シデンが体を小刻みに震わせ、声にならないような声を出す。これって、何かヤバい兆候なんじゃないだろうか。

「おい、大丈夫か?」

頭から手を離そうとした、まさにその瞬間。

シデンが、いきなりだだだだっと駆け出し、部屋を出て行ってしまった。

「お、おい!」

部屋を出ると、どたどたどたっとけたたましい音を立てて階段を上っていくのが見えた。それをそのまま追いかけてみると、上のほうでばたんっとドアを開ける音がした。

まさか引きこもるんじゃないだろうな、と思ったんだが、それは杞憂だった。というか、シデンはもっととんでもないことをやらかしてくれた。

2階に上がると、シデンがかけこんだとおぼしき方に目を向ける。すると、まさにシデンがベランダの柵を飛び越えようとしたところだった。

「あ、あぶねえっ!」

いきなり目の前で身投げなんかされてはたまったもんではない。そう叫びながら全力でそっちに駆け寄るが、とうてい間にあわない。

が、結果から言うと、間にあわなくても問題なかった。

柵を乗り越え、飛び立った瞬間。両手を大きく広げたシデンは、そのまま飛び上がってしまったのだ。

忘れていた。シデンは、空を飛ぶことができるんだ。

もつれる足をなんとか操ってベランダに飛び出した時には、シデンはすでに20メートル以上離れたところを飛んでいた。そして、そこで急激に飛行経路を上に向けると、その姿をどんどん小さくしていく。

あっけに取られているうちに、とうとうシデンの姿は見えなくなってしまった。

「・・・・・・なんなんだ、ありゃ・・・・・・」

「さあ・・・・・・」

俺と、俺を追うように飛び出した鏡介は、半ばあっけに取られてその光景を見ていた。

「まったく、シデンちゃんってば照れ屋さんなんだから♪」

すると、同じようにシデンを追ってきたらしいケイが、俺の横に来てにこにこしながらそのシデンが飛んでいった方向を見る。

「あれって、照れてるっていうのか?」

「だって、シデンちゃんってすっごい意地っ張りさんなんだもん」

「嬉しがる顔を、見られたくなかったんですねぇ〜」

いつのまにかクリンも来ていたらしい。のんびりした声が後ろから聞こえた。振り向くと、ほかにも何人かのモノたちがそこに来ている。まあこいつらは女だしモノだから俺よりはシデンの気持ちが判るんだと思う。

「おい、ほっといていいのか?」

しかし、そのモノたちがそのまま下へと降りていこうとしたので、思わずそんなふうに声をかけてしまった。すると。

「ほっときゃいいんだよ、腹が減ったら帰ってくるって」

なんて無責任なことをヒビキが口にした。

「おい、いくらなんでもそりゃないんじゃないか?同じモノ同士だろ?」

「そんなこと言ったって、どこに行ったのか判らないんじゃ、探しようもないよ?」

「それにぃ、シデンさんが帰るところってここしかないんですからぁ。帰ってきますよぉ」

「そうそう。それよりはやく飯にしようぜ。いつまでも片付かないと、テルミやレイカがうるさいだろ」

俺の意見を代弁した鏡介の言葉は、あっさりと却下されてしまった。

そして、その言葉は正しかった。

しょうがないと諦め、下に降りて昼飯を食べていると、ひょっこりとシデンの奴が帰ってきたのだ。そして、何食わぬ顔で自分の席に座ると、そのまま飯を食い始めた。

「お前、どこに行っていたんだ?」

「うむ、ちょっと成層圏までな」

「そんな所までなーにをしに行ったんだ」

「少々、頭を冷やしに」

俺の質問にシデンは淡々と答えながら、止まることなく箸を動かす。

成層圏といえば確か地上から10キロぐらいの、エベレストよりも高いところだ。確かに寒い所だ(何度ぐらいかは知らん)が、そんな所にわざわざ頭を冷やしに行ったってのかコイツは。

まあ突っ込むのは止そう。確かめる手段もないし、またへそを曲げられたらめんどくさい。

「将仁サン、大変アルね〜、毎日こんな騒がしなトコロにいるアル」

本日入ったばかりの紅娘がしみじみとそんなことを口にする。そして、俺もそう思いながら、吸い物をすするのだった。

どうも、作者です。

やっぱりシデンはトラブルメーカーでした。

ラジコン飛行機の推進力で成層圏まで行かれるか!というツッコミはなしでお願いします。


これだけやってもまだ午前中なんですよね。

というわけで、次回から午後が始まります。

乞うご期待!

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