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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
05.連休も大さわぎ
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05.連休も大さわぎ その9

突然、首筋にすごく冷たいものが触れ、思わず俺は飛び上がってしまった。

しかもその冷たいものは襟首から俺の服の中にするりと入り込んだ。

「うわ、うわ、うわ!」

おかげで、俺はその冷たいものを出すために悲鳴をあげてシャツの裾をズボンから引っ張り出すことになった。

「れっ、レイカお前、いきなり服の中に氷入れるたぁどういう了見だっ!?」

「将仁くんが人の話を聞かないのが悪いのよ。全く、私はあなたを人の話を聞かないような子に育てた覚えはないのだけれど、どこで間違ったのかしら?」

俺も冷蔵庫に育てられた覚えはない、と言いそうになったんだが、俺の目の前にかざされたレイカの右手を、正確に言うとその手に握られた何かを見た瞬間に、言えなくなってしまった。

それは透き通っていて細長く、先端に向かうに従って細くなるという、つららみたいな形をしている。で、最初はそのとおりつららかと思ったんだが、その認識は甘かったと教えられてしまうことになった。

「ってオイ、ほ、包丁じゃねぇか!」

どうやって作ったのだろうか、氷でできた細くて先のとがった、そして刃の部分が見たことが無いぐらいに長い包丁が、レイカの手に握られていたのだ。日本刀なんかで「抜けば球散る氷の刃」なんて慣用句があるが、これはマジで氷の刃だ、輝きの冷たさはその比ではない。

そしてそれは、まさに俺の目の前に突きつけるようにして向けられている。

「生ものを切るときには、刃物との摩擦で熱を持って、そこから鮮度が落ちてしまうの。でもこれなら、その熱が中和されて鮮度を保つことができるのよ。

それにこれは刺身包丁、関西では柳葉包丁とか言われているのだけれど、肉や魚を切るのに最も適した、数ある和包丁の中でも最も切れ味がいいものなのよ」

眉ひとつ動かさず刃物をこっちに向ける姿は、まるで俺を今から三枚におろそうとしているようで、あまりに怖すぎる。

「今なら申し開きも通るわ。彼女を召喚した理由を答えなさい」

誰でもいいから助けてくれぇ、と心の中で悲鳴をあげた、その時。

目の前を、何か黒いものが右から左へと通り過ぎた。と同時に、ぱきぃんと軽い音がして、レイカが持っていた氷の包丁の刃がちょうど中ぐらいから折れた。その折れた破片はくるくると宙を回転しながら舞い、そして天井に硬質な音と共に突き刺さった。

ほとんど同時に、その黒いものが通り過ぎたほうから、何か固いものが壁にぶつかったような大きな音がする。

何事かと音がした方を見る。

そこには、こわんこわんこわんと独特な音を立てながら回る、でかい中華鍋が転がっていた。って、あれって確か紅娘が背負っていたやつじゃないか?

「先輩、先の尖った刃物、人に向けるのよくナイね」

と思っていたら、その紅娘が、床で回っていた鍋を拾い上げ、そして背中に背負いなおした。まさかと思うが、あいつ、あの鍋を投げたのか?

ふと見ると、レイカがその折れた包丁を、ちょっとだけ驚いたようにしげしげと見ていた。

そして。

「これ、あなたがやったのかしら?」

すっと目を細め、その折れた包丁を紅娘のほうに向ける。レイカってあまり表情が豊かじゃないんだが、確実に怒っている。

「将仁サンのこと、助けるためアル」

一方の紅娘は、背中に回した鍋に指をかけたまま、それがどうしたといわんばかりにさらりと答える。

そして、しばしの間、2人のにらみ合いと、緊張した沈黙が流れる。マンガ的な表現だが、その二人の間に火花が散っているようにさえ見える。その隙に俺はレイカから離れた。

二人は、そのままにらみ合っている。縄張り争いがこんなにすさまじいものとは思わなかったので、俺はただただ気圧されるだけだ。

そのとき。

「ぶえぇっくしょい!」

鼻がむずむずっとして、くしゃみが出てしまった。緊張感のない鼻だ、と呆れてしまう、が。

その瞬間。なんか、空気が緩んだ。

「やめましょ、こんなこと」

ほう、と小さく息を吐いたレイカが、折れた包丁を左の袖の中にしまう。

「そアルね、ケガしてもつまらないアル」

そして紅娘のほうも鍋から手を放す。

怪我の功名とでもいうんだろうか、俺のくしゃみ一発で、2人の間にあった緊張がきれいに消し飛んでいた。

「なー、もういいだろぉ。飯はできてんだから食おうぜ、もうあたしゃハラペコだよ」

「全く貴様は、何もしていないくせに何故そう空腹を訴えられるのだ?」

「しょうがないだろ、あたしゃ燃費がよろしくないんだから」

「上官、なぜこんなごくつぶしを呼んだのだ、食費がかさむぞ」

「でも、食べないと冷めておいしくなくなっちゃうよ?」

「それに、このままでは片付くものも片付かないでしょう。とにかく、話は食べてからにしたほうがいいでしょう」

「ん、そうだな。じゃあ悪ぃけどケイ、紅娘のぶんの茶碗と箸を出してやってくれ」

「はーい!」

俺の言葉に気持ちのいい返事をしたケイが、とてててっと台所に駆け込んで、予備の茶碗と箸を持ってきた。

どうも、作者です。

レイカがだんだん本当の雪女になってきました。

そしてやっと紅娘が仲間に迎えられました。めでたしめでたし。

とはいきません。

乞うご期待!

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