05.連休も大さわぎ その6
そこにも、誰もいない。プライベートが欲しいと思って、無理を言って手に入れた個室だが、今となっては寂しさを助長するだけだ。
ひとつ大きく息を吐くと、俺はベッドの上に腰を降ろし、そのままごろんと寝転がった。
「・・・・・・静かだな・・・・・・」
ぼんやりと天井を見上げながら呟く。呟いてから、静かどころではないことに今更ながら気がついた。
しばらくの間、俺はそのままぼんやりと天井を眺めていた。
どのぐらい、経ったのだろう。
ちゃっちゃらっちゃー、ちゃーちゃらーらー。
俺の耳に、しばらく聞いていなかった携帯の呼び出し音が聞こえてきた。
体を起こすと、その発信源を探す。その発信源である携帯電話は、俺の机の上に無造作に投げ出されていて、早く出ろと催促するようにチカチカとランプを点滅させている。
ベッドから降りた俺は、その携帯電話に手を伸ばすと、画面を開き、通話ボタンを押した。
「はい、真田です」
「もっしも〜し、お兄ちゃんですか〜あ?」
すると、その電話の向こうから、聞き覚えのある、いや、聞き間違えるはずがない声が、俺の耳に聞こえてきた。
「ケイ?ケイなのか!?」
「うんっ♪もしかしてびっくりしてる?」
「び、びっくりって、からかうなバカ、どこにいるんだ!?」
「どこって、お兄ちゃんの手の中だよ。もしかしてケイの元の姿、忘れちゃった?」
「・・・・・・え?」
「えへへ、お兄ちゃんの手、とってもおっきいね。ちょっとごつごつしているけど、やっぱりお兄ちゃんの手が一番いいな」
思わず、俺はその携帯電話を耳から離し、まじまじと眺めてしまう。
すると、携帯電話の画面がぱっと変わり、ケイの顔が映し出された。
「もう、そんなにじろじろ見ないでよぅ、なんだか恥ずかしくなっちゃう」
その画面の顔は、ちょっと顔を赤らめながら、俺が見えているかのようにそんなことを言ってくる。恥ずかしいと言われても、こっちは携帯電話を見ているだけでしかないから、あえて言えばテレビ電話しているぐらいの感覚でしかないんだが。
「それにしても、一体何があったんだ?」
「え?何って?」
「何って、みんなもとのモノの姿に戻ってるじゃないか。なにかあったのか?」
すると、ケイはにんまりしてからこんなことを言った。
「ああーっ、お兄ちゃんもしかして寂しいのぉ?」
「え、ばっ、おま、あのなあ」
正直な話、この家は一人で住むには広すぎる。だが、素直に認めてしまうのは悔しいので、そこはちょっとだけごまかす。
「あははっ、やっぱり寂しいんだー」
ぬう、見破られてしまった。が、こんなやり取りができることが、少しだけ嬉しい。
すると。
「もうしょうがないなぁ。それじゃ、寂しがりなお兄ちゃんのために、ケイが一肌ぬいであげよっかな!」
なんか妙に張り切った声と表情で、ケイがそんなことを言った。
「んーーーーーーーーっ!」
そして、携帯画面のむこうで、縮こまるような顔をしてから。
「もおぉぉぉぉぉぉぉぉいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
と、ものすごい声量で叫んだ。どのぐらいすごいかというと、携帯のスピーカーがその大声で壊れるんじゃないかと思ってしまったほどだ。思わずその携帯を放り投げて耳を両手で塞いでしまった。
まずい、と思ったそのとき。俺の目の前でくるくると宙を舞っていた携帯が、まばゆい光に包まれたかと思うと、その光ごとぶわっと膨れ上がった。
人間大に膨らんだそれは、そのままとんと着地した。
「えへ、ただいま、お兄ちゃん♪」
「け、ケイ!?」
気がつくと、いつのまにか光は消えており、いつものあの服装で、髪をサイドテールにしたケイが、にこにこしながら立っていた。
「ケイ!」
「きゃあ!?お、お兄ちゃんちょっとぉ!」
思わず抱きしめてしまった。自分でも驚いたが、俺は自分が思っていた以上にこいつのことを気にしていたらしい。
強く抱きしめすぎたか、ケイが痛そうな顔をしている。気付いた俺は、ケイの体を離す。
そして、額に軽くでこピンを入れた。
「きゃ!?」
「俺を心配させた罰だ。この広い家に俺一人で住むのかって不安になっちまったじゃねえか」
「だからってぇ。ここケイのメモリーなんだから、壊れたらどうするのよぉ」
おでこをおさえて、すねたように口を尖らせるケイの姿は、正直言ってかわいい。
が、頭をなでてやろうとしたそのとき。
「上官ッ!貴様、我を探さぬとは如何なる了見なのだ!」
突然、バルコニーに続く窓ががらっと開いて、緑の服を着た子が部屋に入ってきた。
「Master、諦めが早いデース!Powerをonするトカ、displayをopenするトカぐらい、してくだサーイ!」
そして、入り口のドアがばんっと開かれて、金髪丸めがねの子が駆け込んでくる。
「もうぅ、元の姿になれば、また使ってくれると思いましたのにぃ」
その後ろから、白い髪の女の子がぽこっと顔を出す。
「俺にも気付いてくださいよ、もろに上に乗っていたんスから」
一方で、ベッドの上に乗っていた夏掛けをのけて、俺と同じ姿の男が現れた。
「もう、皆さんそんなにはしゃいで。食事の用意は済んでいるでしょう」
「早く食べないと、冷めてしまうわよ」
その後ろから、仕切るような2人の女性の声が聞こえる。
「・・・・・・ははっ」
なんか、口元から笑いが漏れた。
正直言って、嬉しかった。こいつらとまた一緒にやっていける。そう思っただけで、俺の心はすっと明るくなっていった。
「とりあえず、メシにしよう。テルミとレイカもああ言っているしさ」
俺はそう言ってみんなを立たせた。
そしてその時、俺はあることをすっかり忘れていたのだった。
どうも、作者です。
当然ながら、話はまだ続くのでした。
というか、あんなところで終わらせたら、読んでくださる方々に申し訳が立ちませんのでw
次回は、紅娘が我が家の擬人化たちと出会います。
どんな反応をするでしょうか?
乞うご期待!