05.連休も大さわぎ その4
やばい、やばいぞ、ついに自分のモノでないモノまで擬人化させてしまった。いや、それ以前に、擬人化の現象を、ホントに人がいるところでやってしまった。
こんなことが公に知れたら・・・・・・
「謝謝我叫出、感謝感謝!」
「わっ!?」
「誰か知らないだけど、呼び出してくれて感謝よ!」
突然、俺は違う意味で現実に引き戻された。
目の前に、赤い人影が立っている。いや、赤い人影と思っていたのは、膝丈ぐらいの赤いチャイナ服を着た、ちょっと小柄な女の子だった。頭の左右でわっかにした髪型も、なんとなくだが中国を連想させる。
「・・・・・・えーと、確認するけど、君は」
「ハイな、ワタシ、そこにあた中華鍋アルよ!」
そのチャイナ服娘は、漫画の中国人のような言い回しで返事をしてくる。
改めて見ると、丸顔でぱっちりした目元に愛嬌がある、かわいい子だ。
あわててまわりをきょろきょろと見回すが、人影は見当たらない。それに騒ぎも起きていない。どうやら、いつものように大声を出したりしなかったせいで、本当に俺以外は気がついていないようだ。
こんなにでかい店の防犯レベルがこんなもんで本当に大丈夫なんだろうか。と、それはまあ、この擬人化が他人にばれないということだからいいとして。
「ホントに中華鍋か?」
思わず口にしてしまった。だってそうだろう、中華鍋と言われても、服装が黒いわけでなし、体が丸っこいわけでなし、肌のつやは良すぎるぐらいにいいが脂ぎってテカっているわけでなし、どこにもその面影がないんだから。しいて言えば、頭の左右でわっかにして前髪を切りそろえた髪型が、さっきの鍋を連想させなくも無い。
「ホントよホント。ホラ、これ見るヨロシ」
すると、その子はくるっと後ろを向いた。そして、ちょっとだけ納得してしまった。
なぜかその子は、あのでっかい中華鍋を背負っていたのだ。なんか亀の甲羅みたいだ。ついでに腰帯のところに大きな中華お玉が横渡しになっている。
なんか、中華鍋というよりは、漫画かなんかで出てくる「さすらいの料理人」みたいだ。おおっ、さすらいの美少女料理人。なんかマンガのネタにありそうだ。
「うん?どしたアル?」
あ、しまった、あの子をほったらかしにしてしまった。
「ごめんごめん、ちょっと考え事してた」
「アイヤー、もしかしてワタシの名前、考えてたアルか?」
なんか、その子はキラキラした目でこっちを見ている。
まだ俺のものじゃないのに俺が名前をつけていいのか?と思うが、そんなふうにキラキラした目で見られると、否定することができない。
しかし、はっきり言って考えてないぞ。もとが中華鍋で、チャイナドレスときたらやっぱり中華的な名前が合うんだろうが、正直、中国人の名前なんて毛沢東とか袁世凱とか孫文ぐらいしか知らない。しかもこれ全部おっさんじゃないか。楊貴妃はありゃ通称だし。
うちの担任である徳大寺先生が、漢文つながりで中国フリークなんで俺もほんのちょっと中国語は知っているんだが・・・・・・
「じゃあ・・・・・・紅娘は?」
ない知恵を絞って、搾り出したネタを告げる。赤い服着た女の子だということで、それぞれを強引にくっつけたものだ。
「紅娘アルか?じゃあワタシ、仲人するアルか?」
「へ?仲人?」
「紅娘って、中国語だと、仲人サンのことアルけど」
「う・・・・・・」
知らなかった。仲人のことなのか。
「他にも、テントウムシをそう呼ぶこともあるアルな」
「いや、別にそういうつもりじゃなくて、えーと、紅い服の子だから、ひねらないほうがいいと思って。あまり中国語とかわかんないもんで」
「アイヤー。でもそれ、ワタシ結構悪くないと思うアルね。んじゃ、ワタシの名前、紅娘でいいアルか?」
よかった、嫌ではなかったらしい。けど、そういう意味があるとなると、逆にそんな名前をつけたらまずいんじゃないか・・・・・・って、まあ本人がいいと言っているんだからいいか。
「ああ、よろしくたのむよ」
俺はそう言いながら肩に手を置いて、くるりと後ろを向かせた。
「ほえ?」
「ちょっと、この鍋、貸してくれ」
「え、ちょちょちょ、やんっ、なにするアルかっ!?」
俺がその鍋とお玉に触ると、紅娘は体をびくっとさせてから、素早く体を返して肘を繰り出してきた。まさかとは思うが、これって中国拳法ってやつか?
「わったっ!?」
とっさに、というよりほとんど条件反射でその肘を受け止める。マジで痛い。
「あ、アイヤー、對不起對不起、ごめなさい、つい」
「ててっ、なにするって、お前はまだこの店の売り物だもんよ、黙って持っていったら泥棒だろ」
「うううぅぅぅ、そいえばそうだたアルぅ」
紅娘は、俺に攻撃してしまったこともあってか、しゅんとしてしまった。
とはいえ、いつまでもここでこうしているわけにはいかない。うちのメンバーには昼までに戻ると言って来た以上、遅くなったら色々と問題がありそうだ。
結局、中華鍋は買い取らなければならないということを言い聞かせ、紅娘と一緒にカウンターへ持っていった。
どうやら紅娘にとってはその鍋に触られるのは体に触られるような感じがするらしく、カウンターで店員がレジを打っている間も紅娘は所在なさそうにもじもじしている。顔までちょっと赤くなって、本当に「紅娘」だ。
そして、レジの処理が終わると、ほっとした紅娘は、嬉々としてその中華鍋を自分の背中に背負ったのだった。
ちなみに、その中華鍋、3000円だった。
どうも、作者です。
中華ハイパー鍋っ子、紅娘の登場です。
主人公氏の持ち物でないものが擬人化してしまいましたが、最終的には「道具」のほうは主人公氏のものになったので大目に見てください。
次回、紅娘をつれて帰った主人公氏は、ある事件に遭遇します。
どんな事件でしょうか?
乞うご期待!