04.引越しは大変だよ その22
それからしばらく、俺と鏡介は一緒になって取り組んだ。
意外だったが、鏡介と一緒にやると、問題集が快調に進む。外見だけではなく頭の中のレベルも同等なのか判らないところもほとんど同じで、そうなると二人してうんうん考えるからだ。
そうやって予定の半分ぐらいが終わったので、一息つくことにした。
「あーっ、疲れたーっ!」
とたんに、鏡介がごろんと寝転がった。相当疲れたみたいだ。
「なあ鏡介。お前が下にいたとき、あいつらは何していた?」
「あー、バレンシアさんを真ん中にしておしゃべりしていましたね。常盤さんがうちのモノとしての心得を話して、お互いに自己紹介して」
ごろんと寝転がったまま、鏡介がそんなことを話してくれる。鏡介も自己紹介して、みんなの前で変身して見せたらしい。
「あ、そうだ」
と、何か思い出したように、鏡介が起き上がった。
「そういえば、クリンさんがみんなに怒られていましたね」
クリンが、と聞いて、思わずあの感触を思い出してしまう。
「将仁さんと一緒に風呂に入ろうとした、ずるい、抜け駆けだーって」
「ぬ、抜け駆け!?」
ってことは、他に俺と風呂に入りたい奴がいるってことか!?
「そりゃ居るでしょ、年頃の男女が一つ屋根の下で集団生活しているんですから」
「そ、そんなもんか?」
なんか、鼻の下が伸びてしまう。いかん、また妄想が膨らんできた。うん、嫌われていないのはいいことだ・・・・・・よな?惜しむらくは、俺を好いている彼女らが普通の人間じゃないってところだが。
「俺がいる前で、そういう話は勘弁して欲しいんスけどね。一応、俺だって男なんだし」
その俺の前で、鏡介がそんなことをこぼす。
「そういえばお前と風呂入ろうっていう奴はいないのか?」
「いないっスねえ」
ちょっとからかってやろうかと思い、そんなことを聞いてみると、速攻で返事が来た。
「マジ?」
「マジっす。俺もなんですけど、擬人化は擬人化を見抜く、って言うんですかね。普通の人とは違うなって感じるんスよ。で、俺は将仁さんのニセモノだから、俺に媚売ってもなんにもないっていうか、男としても見られていないみたいで」
なんか、こいつ、苦労しているんだなぁ。可愛そうになってきた。
「鏡介、気にするな。他の連中がなんと言っても、俺はお前の味方だから」
思わず俺は鏡介と肩を組んで、慰めの言葉をかけていた。
「くーっ、鏡介お兄ちゃんったら、お兄ちゃんと仲良く肩なんか組んじゃって〜」
「この我でさえ、まだ手も握っておらぬというのに〜っ」
そのとき、俺は気がつかなかったんだが、ドアのむこうで、お茶を持ってきたケイとシデンが、ドアの隙間を覗きながら、悔しそうに歯噛みをしていたんだそうだ。
「ふたりともー、いつまでかかってるのー!」
俺が聞いたのは、レイカのその声と、その後に続いた、ばたばたと廊下および階段を下りていく足音だった。
そして、鏡介はあとでその2人に相当責められたそうだ。




