01.それは1本の電話から始まった その7
メイドさんが出した60インチのテレビ画面は、芸能人たちがクイズの回答に大げさに一喜一憂する姿を映し出している。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん?お願いがあるんだけどぉ」
そのクイズ番組を見てしばしの現実逃避をしていると、携帯の子がおねだりするような声をかけてくる。
「あのね、私、名前つけてほしいなぁ」
「へ?名前?」
「あぁ、そういえばそうですね。いつまでもお前とか君とか呼ばれるのはちょっと寂しいでしょう」
テレビの上から顔を出すメイドさんも、賛同してくる。
でも、いきなり名前って言われても俺は困ってしまう。もし本当に彼女らが携帯電話やテレビだとすると、俺は携帯電話やテレビに名前をつけることになる。なんだそりゃ。
しかし、今はどっちもかわいい女の子だ。俺がおかしくなったんじゃなければ、だが。
「ねーえー、名前名前ぇー」
悩んでいると携帯娘が俺の腕をゆさゆさとゆすってくる。こりゃ、早いところ何かつけないと、開放されないかもしれない。
「わーかった、わかった、んじゃ、携帯電話だから、ケイなんかでどうだ?」
「やったぁ、かわいい名前!じゃあ、今からケイはケイだね、ありがとーお兄ちゃん♪」
「わっ!」
名前がつけられたのがそんなに嬉しいのか、俺がケイと名づけたその子は俺に思いっきり飛びついてきた。おかげで、俺は押し倒されてしまう。
「お兄ちゃぁん、ケイ、がんばるからね♪」
「わっ、わっ、判ったから、ちょっと、離せ、離せっ!」
抱きつかれた瞬間、ぷにぷにした感触がした。こいつ、ホントの本気で携帯電話なのか?と疑いたくなる感触だ。
のみならず頬ずりまでしてくる。イケナイ衝動が盛り上がってくる。
「じゃあ、ケイ、さっそくだけど頼みがあるんだ、やってくれるか?」
「うんっ♪ケイ、がんばる!」
なんとかケイを引き離すと、俺は彼女にあることを頼んだ。それは。
「うん、わかった。弁護士さんに電話するのね?」
常盤花音代と名乗るあの弁護士に、連絡を取ってもらうことだった。
「本当にできるのか?」
「だーいじょーぶっ♪電波状況も良好だし、履歴追ってリコールすれば一発だもん」
「電波状況?」
「うん。ほら、3本立ってるでしょ?」
そう言って指差したのは、ケイから見て右のおでこの上だった。
見ると、前髪の一部が確かに3本、まるで触覚のように上向きで跳ね上がっている。ということは、これが、携帯の電波状況を示すメーターなんだろうか。
なんというか、ずいぶんと芸が細かいもんだ。んじゃこの顔のどっかに電池のバッテリー残量とかも現れるのか?
「じゃあ、ちょっと待っててね?」
なんか心配だが、唯一の連絡手段がケイしかないのでしょうがない。
すると、ケイは精神集中するように目を閉じて静かになった。
「・・・・・・あのー、将仁さん?」
すると、違う声が聞こえる。あのメイドさんの声だ。
見ると、そのメイドさんが、コマーシャルを流すテレビ画面の上から、寂しそうにこっちをじーっと見ている。
「な、何かな?」
「私も、名前・・・・・・つけてくれても、いいでしょう?」
「う、な、名前ね・・・・・・」
うぅ、困った。テレビだからテレ子じゃどっかのキャンペーンマスコットみたいだし、変な名前つけたらそれこそすねてテレビ見せてくれなくなるかも知れないし。
「ん?」
だがその瞬間、俺の頭にある言葉がよぎった。
「そうだ、これにしよう。君の名前は、テルミだ!」
その言葉を聴いた瞬間、メイドさん、もといテルミの表情がぱっと明るくなった。
「テルミ・・・・・・はい、素敵な名前です。では今から、私のことはテルミとお呼びください」
そして、頭だけで礼をする。画面が出ている間は体は動かせないらしい。
名前の由来を聞かれなかったのはある意味幸いだったかもしれない。まさか、映画で見た「テルミットプラズマ焼夷弾」から取ったなんて、言えるわけがないよな。
「ははは、まあ、がんばってくれ」
俺はテルミにそれだけ声をかけた。
どうも、作者です。
妹機能つき携帯電話及びスーパーメイドテレビの名前が決まりました。
ちなみに名前の由来は、ケイはそのままなんですが、テルミのほうは最初「テレミ」でした。
テレビ→テレ美→テレミ、って感じです。でもそれじゃあんまりだろ、ってことでもうちょっと改良を加えてテルミにしました。