04.引越しは大変だよ その16
新しく買い込んできたテーブルや椅子を運び込んで、家の中の片付けなんかをしていると、いつのまにか夕飯時になってしまっていた。
「もうこんな時間じゃねえか。道理で腹が減るわけだよ」
ひと段落して、みんなでまったりとテルミを、もといテレビを見ていると、ヒビキがそんなことを口にした、
「貴様の場合は常に空腹なのであろう」
すかさずシデンがツッコミを入れる。だがその直後、そのシデンの腹がぐうと鳴った。いいコンビだな、こいつら。
「じゃあ、そろそろ夕食の支度に取り掛かりましょうか」
レイカがそう言って立ち上がった。
「はーい、じゃあケイもお手伝いするー!」
すると、ケイもぴょんっと立ち上がった。
そして2人がキッチンに入っていくのを眺めていると、ふとこのリビングの入り口が目に入った。
「そういえばあの2人、まだやってやがるのか?」
同じほうを見ていたりゅう兄がダレともなく聞いてくる。
あの2人とは、常盤さんとバレンシアだ。あの後、常盤さんがバレンシアを連れて2階に上がったんだが、そのまま下りてこないのだ。
何をしているのかちょっと気になったので、1時間ぐらい前に見に行ったら、なんか2人してあのダンボールの山の目の前に陣取っていた。
「ええっとこれは、2003年5月の・・・・・・」
「Yes、passしてくだサーイ」
常盤さんが書類を引っ張り出して渡し、バレンシアが受け取って食い入るように読んでいる。
なんでも、それがバレンシア式のデータ変換の方法なんだそうだ。詳しいことはよくわからないが、目で見た書類を画像データに変換し、それをフォルダに分類して保存しているらしい。
なんか暗記術みたいな記録方法だが、それでこの山をマジで克服するつもりなんだろうか。
「Don’t mind, don’t mind.もーう3year分、recordしたデース」
聞いてみると、バレンシアはさらっとそう答えた。
「さすがコンピューターね。このぶんだと、今日中に5年分ぐらいの資料は取り込めそうだわ」
これには常盤さんも絶賛だ。スペックをよく知らないで買った俺もアレだが、どうやらバレンシアの奴は俺の想像していた以上に優秀なパソコンらしい。
「そうだ、Master」
ひと段落したのだろう、見ていた分厚い書類の束をとんとんとまとめながら、バレンシアがこっちを向いて声をかける。
「Master、ミーは欲しいものがあるのデース」
「欲しいもの?」
「イエース。ミーはexternal harddiskとantiviral softwareが欲しいデース」
へ?なんだそりゃ?ハードディスクとソフトウェアは判るが、エクスターナルとかアンチヴィラルとかってなんだ?
「悪い、日本語で頼む」
「Oh, sorry. んー、外部接続のハードディスクと、アンチウイルスソフトが欲しいデース」
そう言ってもらうと判るんだが、確かにパソコンが欲しがりそうなものではある、が。
そんな簡単に手に入るものなんだろうか。思い返してみれば、買ったときにすぐ近くにハードディスクも売っていたがそんなに安くなかったような気がするし、パソコンのソフトってのはゲーム機のそれより高いと聞いたことがある。
そう言われて、ちょっと困ってしまった俺は、常盤さんに話を振ることにした。
「えーと、常盤さん?」
「え?」
常盤さんは、珍しくぽかんとしていた。どうも、ハードディスクやアンチウイルスソフトというもの自体が判っていないらしい。そこまでアナクロなのか、この人は。
だが、設備投資、言い換えればお金の話だと判ると、納得したようだ。
「それって、今すぐ必要かしら?」
「んー、right now(今すぐ)ではありまセンけれど、コレからall dataをrecord&conserve(記録し保存)するナラ、必要デース。Important(重要)なdataはbuck-upも、必要になるデース」
「そう、それじゃあ、近いうちに買いに行きましょう。将仁さん、構いませんよね?」
構いませんよね、と聞かれても、今この家の財布を握っているのはその常盤さんだ。
「いいんじゃないすか?」
俺は、そうとしか答えられなかった。
どうも、作者です。
コンピュータのデータ記録というのは、必要・不必要を振り分けないで全部記録するというイメージがあったので、丸暗記させました。
ご意見、ご感想、またイメージイラストなどなどありましたら遠慮なく私宛に送って下さい。
首をながくしてお待ちしています。
次回も、乞うご期待!