04.引越しは大変だよ その10
色々と騒々しかった昼飯が終わり、俺たちは再び荷物の整理に取り掛かることにした。まあ、整理と言っても、搬入は終わってしまったので、せいぜい箱から出して並べるぐらいだし、数も少ない。
それよりも、椅子が足りないとか食器棚がないとかいう話のほうが問題だということになり、午後は「買い物班」と「整理班」に分かれて行動することになった。
ちなみに俺は、自分の部屋の荷物が片付いていないので残ることを申し出た。俺以外では、あの山のような書類入りダンボール箱の整理がある常盤さんと、1階の整理及び掃除などをするためにケイとテルミが残っている。昼メシ前は俺と一緒に部屋の整理をしていた鏡介は、またも力仕事要員の一人として買い物班に引きずられていっている。
「りゅう兄がトラックドライバーとして向かっているわけだし、積み込むだけならヒビキがいれば充分だと思うんだけどなぁ」
「ごめんなさいね、手伝ってもらって」
そして俺は、常盤さんの手伝いをしていた。なにしろ、俺の荷物なんかよりずっと多い。それを一人で片付けてたら、夜が明けるどころか次の日が沈んでも終わなそうだからだ。
その荷物を開封して思ったんだが、常盤さんはよく言えばアンティークな、悪く言えば古臭いものを好む傾向があるみたいだ。万年筆とかソロバンとかなら今でも使われているからまだいいが、めちゃくちゃ形の古い黒電話が出てきたときには、思わず目を疑ってしまった。
常盤さん、こんなもの、まだ使う気なんだろうか。それ以前に、電話として繋げられるんだろうか。
「あら、将仁さん。パソコン、お持ちなんですね」
今では博物館入りしそうな黒電話を眺めていると、常盤さんの声が聞こえてきた。
そういえば常盤さんの荷物の中にはパソコンとかがなかったなぁ、なんてことを思いながら俺の部屋に行くと、常盤さんが机の上に置かれたモノを物珍しそうになでていた。
ノートパソコンである。水色の外装の真ん中には柑橘類を半分だけ輪切りにしたような、パソコンメーカー・オレンジ社のマークとロゴのレリーフがはめ込まれている。ずっとほったらかしだったんで、引っ越したのを機に今度こそ何でもいいから使おうと、久しぶりにコンセントをつないで充電していたんだ。
「いや、持っているだけですよ」
「あら。そうなんですか?」
「インターネットとかやろうと思って買ったんですが、うまいこと繋げられなくて。そのまま、使わなくなっちゃったんですよ」
あけてみると、キーボードはまだ真っ白でほとんど使われた形跡が無い。使ったことがないんだから当たり前だ。俺だっていまどきの若者なんだからパソコンぐらい使えないと、とは思うが、それはそれでなんか難しそうな気がする。
「そうですよね、最近の電気製品って、本当に複雑ですよね」
すると、常盤さんはぱっと表情を明るくして、ITに対応できないで時代に取り残された中高年のおっさんのような発言をする。
それでいまどきの弁護士の仕事ができるのか?と思ったら、なんと常盤さんは書類は全部手書きで、計算はソロバンでやっているんだそうだ。ということは、常盤さんはここにある山のような書類を全部手書きしたってことになるのか。
「常盤さんって、ずいぶんとアナクロな人なんですね」
「これでも結構昔に生まれましたから」
そして常盤さんがにっこりと笑う。顔に目立つシワとかがあるわけでもないし、白髪があるわけでなし、女性だから髪が薄くなるわけもなし、そんな年には見えないんだが、もしかして意外にお年を召しているんだろうか?
が、聞けない。聞いちゃいけないような気がする。
「うーん、インターネットのこと、お前が、直接教えてくれればなぁ」
ごまかそうと思って、そのノートパソコンを撫でる。
それが間違いだった。
きいいいいいぃぃん。
聞きたいような聞きたくないような、あの、耳鳴りのような音が、聞こえてしまった。
「やべっ!」
思わずそんな言葉が出るがもう手遅れだ。
後悔する間もなく、引越し後一発目の発光現象はこうして訪れてしまった。
「うわーいっ!」
目の前が、目も開けないほどの真っ白い光に包まれ、俺は目を閉じてしまった。
どうも、作者です。
あんなアナクロな頭で弁護士なんかやってられるのかと仰る方もおられるかもしれませんが、そこは仕事をしぼっているからだと理解してください。
そのほかにも、感想・評価などお待ちしていますので、遠慮なくお願いします。
さて、ラストにああいうシーンが出たということは。
お待ちかね(待ってないか)新しい擬人化の登場です。
さて、どんな子が出るのか。乞うご期待!