04.引越しは大変だよ その8
荷物を半分ほど運び込んだ頃、りゅう兄がクリンと鏡介を乗せて帰ってきた。
所詮は一人分の荷物。これだけの大人数で運べばすぐに終わってしまう。というわけで、昼を少し回ったところで、荷物の運び込みは全て完了してしまった。
「みんなーごはんできたよー!」
そして、俺が荷物を解いていたところに、ケイの呼び出しボイスが響き渡った。
「もうそんな時間か」
「いくぞ鏡介。遅れたら全部食われちまうぜ」
本棚に本を入れている鏡介に声をかける。そして、もうちょっとで終わるということだったので手伝うことにした。
「あら、将仁さん、鏡介さん。ごはんは?」
そこに、別の部屋で自分の荷物の整理をしていた常盤さんが顔を出した。
「あ、常盤さん。あと少しで終わるんで」
「将仁さん、大丈夫ですよ、俺一人でもできますから」
「いいって、それに、どこに何が入っているか把握しとかないと後で困る」
これはホントのことだ。明日の用意をするときになって、教科書がない参考書がないなんてことにはしたくない。
「よし終わった。じゃあ行くか」
「おにぃちゃーん、鏡介おにぃちゃーん、常盤さーん、早くーぅ!みんな待ってるよー!」
立ち上がるのと同じタイミングで、ケイの呼び出しボイスが再度聞こえてくる。
「早く行きましょう。あまり待たせたらかわいそうでしょ?」
常盤さんに促され、俺らは1階に下りて、ダイニングへと向かった。
「もう〜、お兄ちゃんたち遅いよ〜、ケイもうおなかぺこぺこだよぉ」
下につくや否や、ケイに引っ張られてダイニングへと向かう。
ダイニングには今まで使っていたテーブルを持ってきていたんだが、なにしろ椅子が4脚しかないので、そのテーブルは脇によせて、床にござを敷いて、そこに各種のおかずが置かれている。
なんだか、山小屋でメシを食っているような感じだ。
「よう、先に頂いてるぜ」
最初に声をかけてきたのは、あぐらをかいたりゅう兄だった。行儀が悪いことに、左手で茶碗を、右手で魚を箸でつまみ上げてこっちに合図を送っている。
「龍之介さん、行儀が悪いでしょうっ!」
その向かいでは、正座して吸い物のお椀を置いたテルミが眉を吊り上げる。その横では。
「離さぬか貴様」
「やだね、あたしが先に取ったんだぜ」
「何を言うか。先に狙いをつけたのは我だ」
中腰の状態でひとつのアジフライを器用にふたりでつまんでにらみ合うヒビキとシデンがいて。
「まさひとさぁん、こっちですよぉ」
正座した状態で手をひらひらさせるクリンがその横にいた。
「ああ、ケイちゃん、いい所に来たわ。これを持っていってちょうだい」
「はーい!」
そのとき、キッチンのカウンターからレイカが顔を出し、そしてカウンターに大きな器を置いた。
器の中には、ニンジンやレンコン、シイタケ、大根、鶏肉などの煮物、いわゆる筑前煮がたっぷり盛り付けられている。ぷんと匂う醤油のにおいが食欲を刺激し、よだれが出そうになる。
「いいよ、俺が持っていく」
思わず手が伸びて、その器を持ち上げてしまった。
「えー?でもケイがいわれたのにぃ」
「このぐらいいいって。ケイだって疲れてるだろ」
真っ先に食いたいからだ、というのは伏せておく。
「レイカさんも早めに切り上げてメシにしましょうよ」
「ええ、ちょうど終わったところだし」
鏡介が声をかけると、レイカは厨房からタオルで手を拭きながら出てきた。その姿に、何となくだが実家のお袋を連想してしまう。
「将仁くん、何か言いたいことでも?」
ちょっと不思議そうな顔をされてしまった。お袋を連想しただなんて言えるか!
「な、なんでもない」
「そう」
レイカはそう言うと、もう関心がなくなったようでさっさと自分の席についた。
どうも、作者です。
引っ越したばかりなのにもう生活感がいっぱいですw
大家族の食卓ってこんな感じかな〜と想像して書いております。
なお、感想・評価・苦言・提言など今後もお待ちしていますので、良ければ書いて行ってやってください。
それでは、次回も乞うご期待!