04.引越しは大変だよ その6
ききーっ。
閑静な住宅街の一角に、ブレーキ特有の甲高い音を立てて、アルミバンが停車する。
「はー・・・・・・コレか」
アルミバンから降りた俺は、その目の前にそびえる建物を見て、思わず声を上げてしまった。
まず、思っていたよりずっとでかい。屋敷と言ってもいいんじゃないか、と思うぐらいだ。しかも、築10年とは思えないほど綺麗な状態で残っている。さらにその前にある塀の長さから想像するに、結構広い庭があると思われる。
なんか、ある程度成功した芸能人が見得をはって建てた家を想像してしまう。
「これはまた、ご立派な家じゃないの」
その家を眺めたヒビキが、俺の肩をぽんと叩いて、同じように屋敷を見上げる。
そのヒビキなんだが、少し息を弾ませてはいるが、馬も真っ青なスピードで走ってきたとは思えないほどに平然としている。
「お前、大丈夫なのか?」
「いやー、久々に走ったけど、やっぱ気持ちいいもんだね〜。もうちょっと走っていたかったんだけどねぇ」
ヒビキは、俺が心配したのがバカだった?と思うほどあっけらかんと、そして楽しそうに答えてくれた。
「あ、将仁さん、お疲れ様です」
門の前で踏み出せないでいると、その屋敷の玄関のドアが開いて、見覚えのある女の人が顔を出した。
「こんにちは、常盤さん」
俺に続いてアルミバンの座席から降りたケイが、ぺこりとその人、常盤さんに挨拶をする。どうやら常盤さんは家の中を掃除していたらしく、いつものジャケットを脱いで、腕まくりなんかしている。
そして俺も挨拶をしよう、と思った矢先。
「遅いではないか、上官殿。我を待たせるとは、良い度胸だ」
聞き覚えのある、偉そうな声が耳に入ってきた。
まさか、と思って、その声がしたほうを見ると、そこには腕を組んで不遜な笑みを見せる和装の女の子の姿があった。
「し、シデン!?なんでいるんだ!?」
「ふふん、貴様の行動など全てお見通しよ」
驚く俺を見てよほど嬉しかったのだろうか。すっごくうれしそうな顔になっている。
「なぁに言ってんだよ、あたしらの頭の上をずーっと飛んでついてきていたくせに」
「うっ、ううう、うるさいっ、黙れ黙れ黙れっ!貴様誰の許しを得て口を開いておるか!」
だが、ヒビキがばらすと、真っ赤になってしどろもどろになる。なんか子供っぽい。
なるほど、空を飛んできたわけね。
「な、何を笑っておるのだ上官ッ!」
「いや、かわいいい奴だなと思ってさ」
「なっ・・・・・・」
「ふふふっ、面白い方ですね」
常盤さんまでが笑い出し、シデンはさらに真っ赤になり黙り込んでしまった。
「そんじゃ、あっちで待ってる連中もいるこったし、とっとと荷物を下ろしましょうや」
なにが「そんじゃ」なのかは知らないが、アルミバンから降りてきたりゅう兄に促され、俺らは全員で荷台の前に移動する。
いや、一人、移動しない奴がいた。
シデンだ。さっき茶化されたのがよほど堪えたのだろうか、あれからずーっと突っ立ったままでうつむいている。
「何やってんだあいつは。ケイ、ちょっと呼んできてくれ」
「はーい」
気持ちいい返事をして、とてててっと、ケイがシデンのところに走っていく。
「それにしても、将仁。よくこんな家見つけやがったなあ」
「俺じゃないよ、常盤さんの家だって」
りゅう兄がかけてくる言葉をはぐらかしつつ、俺はアルミバンの後ろ扉に手をかけた。
がちょん。と重い音を立ててアルミバンのドアロックが外される。
「せーの、よいしょっ」
そして、扉をりゅう兄といっしょに開く。
「もう、やっと開いた。着いたのならばすぐに開けなさい」
「本当です、全く待ちかねましたでしょう」
すると、その中からいきなり声が聞こえた。
「れ、レイカ、テルミ、なんでここにいるんだ!?」
そう、アルミバンの中から家具と一緒に出てきたのは、テルミとレイカの大物電化製品コンビだった。しかも、いつもの格好で平気な顔をしているテルミに対し、レイカはよっぽど暑かったのだろうか、どこからかうちわを持ち出して着物を思い切りはだけさせた状態でぱたぱたと扇いでいる。
レイカの奴、着物なんか着ているくせに日本人離れしたスタイルしているもんだから、正直、目のやり場に困る。
「なんでって、乗ってきたからに決まっているじゃない」
はだけた着物を直してから、レイカが荷物をひとつ持ってひょいと飛び降りる。
「もう、気がついてくれないなんて。将仁さんったら、ちょっと薄情でしょう?」
同じように荷物をひとつ持って、テルミもアルミバンの中から降りてきた。
どうやら、気がつかないうちにこの2人を入れたままドアを閉めてしまったらしい。
「そうそう、常盤様。家の中を、案内していただけないでしょうか?」
あ、そういえば、引っ越したとはいえ常盤さんの他はこの家の中のことを知らないんだっけ。荷物をどこから入れるかとかも考えないといけないし。
「ああ、そうですね。じゃあ、今から案内しましょう」
というわけで、トラックの扉を閉めると、全員でその新居の中に入っていった。
どうも、作者です。
やっと引越し先に到着です。
これから先は、ここがメインステージになります。
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それでは、次回も乞うご期待!