04.引越しは大変だよ その4
「さてと、こんなもんか」
最後に残った小さいダンボールを積み込んで、部屋の引き払いは終わった。
兄貴は気を利かせて4トントラックで来たんだが、男の一人暮らしでそんなに入用になるわけもなく(モノ軍団の私物はまだほとんどないわけだし)終わってみると結構な空間が残っていた。
だが、荷物が減った分増えたものがある。人だ。
借りてきたトラックの座席は3人分しかない。そのうち、ドライバーであるりゅう兄は絶対乗ってないとダメだ、ということを考えると、あと2人しか乗れない。対して、こっちにはりゅう兄を除くと、俺、ケイ、テルミ、ヒビキ、クリン、鏡介、レイカ、シデンと8人もいる。ヒビキあたりは、同じ「乗り物」ということで車の扱いとかは判ってそうだが、現実的に考えて免許なんか持っているわけがない。
仕方がないので、何回かに分けて運ぶことにした。
「りゅう兄と俺と、あと一人か」
「はいはいはーい!ケイが行きまーす!」
いきなり立候補したのは、ケイだった。
「お前かぁ?」
「だってお兄ちゃん、行ったことないんでしょ?ケイなら、住所教えてくれればナビできるもん」
って言っても、お前はカーナビじゃないだろう、と言おうとしたら。
「最近の携帯サービスってね、道順案内とかも出来るんだよ。お兄ちゃんも、ケイのこともっとちゃんと活用してくんなきゃダメだよぉ」
と諭されてしまった。一応、その家の周辺地図は貰ってあるんだが。
「ねぇ〜いいでしょ〜お兄ちゃ〜ん。ちゃんとナビするからぁ〜連れてってよ〜」
ちょっと考えているうちに、ケイは俺の腕にぎゅっとしがみついて上目遣いで言ってくる。擬人化してまだ4日目だってのに、こいつは一体どこでこんな仕草を覚えてくるんだ。
でもまあ確かに、地図以上に詳しい案内が出来るのであればそれに越したことはないわな。
「わかったわかった。じゃあ、お願いしようかな」
「わーい、やったぁー!」
ケイは、ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでいる。何がそんなに嬉しいんだろうか。
・・・・・・俺、そのへんが判らないから、朴念仁だのと呼ばれるのかな。
「なあ、引っ越す家ってのは、ここからどのぐらいかかるんだい?」
今度はヒビキが聞いてきた。
「駅2つぐらい先だから、車で行けば15分ぐらいかと思うが」
ヒビキが来てくれれば、その桁外れの膂力で荷物降ろしも簡単に済むんだろうが、ケイを乗せちゃったらそれもムリだ。とはいえ、ケイを置いていったらまたすねるだろうし、ナビのレベルが落ちて到着に余計な時間がかかることも考えられる。まさか荷台に乗せるわけにもいかないだろうし。
と思ったら、ヒビキは変なことを口走った。
「なんだ、そんなもんか」
「そんなもんって、歩いて来るつもりか?歩いてくるんだったら、待っていたほうが結局速いと思うんだが」
何が言いたいんだ、こいつは?と思いながら正直なところを答えると、ヒビキはチチチッと舌打ちをしながら、真っ直ぐ立てた人差し指を小さく左右に動かした。
「将仁、おまえ、あたしが何だったか忘れてない?」
そして、その指先でサンバイザーを軽く突き上げ、にやっと笑う。
「あたしは走るために作られたバイクなんだぜ?走るのは得意中の得意だっての。あんたらが乗ったトラックの後ろを走って追いかけるから、案内のほうしっかり頼むよ」
マジかい、と思う目の前で、ヒビキはなにやら屈伸や伸脚などの準備運動をやり始めた。どうやら、本気で走るつもりらしい。
確かにバイクだったら車と同じぐらいのスピードは出るが、今のヒビキは人の姿だ。タイヤで走るのと足で走るのは勝手が違う、と思うんだが、当の本人はすでに走る気満々だ。
その少し離れたところでは、シデンが首や腕を回している。こいつも走る気かと思ったが、こっちはどちらかというと一仕事終わって筋を伸ばしているだけみたいだ。
「おーい、そろそろ行くぞー」
そんなやり取りをしていると、りゅう兄の声がした。見るとすでにりゅう兄がトラックのエンジンに火を入れて待っている。
「あー、今行くー」
そう返事して、ケイを呼んだ。
「それじゃ行ってくるねー」
そう言って手をひらひらさせたケイがトラックの座席に入る。
そして俺も乗り込むと、ばたんとトラックのドアを閉めた。
「んじゃ、後は頼むな」
窓をあけて、外にいる鏡介とクリンに声をかける。
「ういっす、任しといてください」
「いってらっしゃぁ〜い」
二人は、並んで俺を見送ってくれた。
どうも、作者です。
荷物より人のほうが多い引越しはこんな感じでしょうかw
次回、なにやら準備運動していたヒビキの実力が発揮されます。
乞うご期待!




