04.引越しは大変だよ その3
「将仁くん、いつまでひっくり返っているのかしら?」
「まだ、部屋の中に荷物はあるでしょう」
と思っていたら、テルミとレイカが両手に荷物をかかえて降りてきていた。
そういえば、こいつらはモノだった時は、60インチのプラズマテレビに3ドア式冷蔵庫と、共に特大サイズの家電製品だったんだよな。普通の引越しだと動かすのも苦労するようなモノが自分で歩いてきてくれて、のみならず他の荷物まで持ってくれるんだから便利なもんだ。
これで洗濯機がいれば三種の神器勢ぞろいかな、と思った、その矢先。
ずどどどどっ!
「あわわわわわっ!」
ものすごい音と間の抜けた悲鳴とともに、黒い塊が階段の上から転がってきた。
「あいたたたた・・・・・・」
その塊は、一抱えほどのダンボール箱を抱えた状態で、目をぐるぐる回しながら階段の下にぺたんと座り込んでいた。
「くっ、クリンっ、大丈夫かっ!?」
思わず駆け寄って声をかけると、クリンがやっと目の焦点を合わして、顔を上げた。
「あぁ、将仁さぁん。私は大丈夫ですぅ、それよりこれぇ」
まだメイド服を着たままのクリンが、持っていたダンボール箱を差し上げる。受け取ってみると結構重い。何が入っているんだろう。
「体を張って、守りましたぁ」
そして、にっこり笑うと、よっこらしょと立ち上がり、ぱんぱんと埃を落とした。
「おめぇんとこって、いっつもこんなにぎやかなのか?」
その後ろから、衣装ケースを抱えたりゅう兄が降りてきた。なんか、やっと当たり前の光景を見た気がしてなんかほっとしてしまった。
「なーんかさ、日を追うごとに、現実ってなんだろうなって思っちゃうよ」
ほっとしたついでに、そんな愚痴がぽろっと口から出てしまう。すると、りゅう兄は抱えてきた衣装ケースを下ろして、
「そう後ろ向きに考えんなよ、おめぇの悪いくせだぞ?」
と言いつつヘッドロックをかまして来た。いつものパターンなのに、なんで避けられないんだ俺。
「考えてもみろって、これだけのかわいい子と同居できんだぞ?男ならこの状況を楽しまねぇでどうすんだよ」
「いでででででで!」
だからってチョークスリーパーに持って行くな!
楽しむって言われても困る。確かに、かわいいのは認める。(ただし鏡介は除く。自分の姿をかわいいとは言いたくない。)が、同時にものすごく疲れるんだということを、この能天気兄貴には分かってもらいたい。なにしろ俺、ちょっと前までは一人住まいだったんだぞ?
「お兄ちゃぁん、さぼっちゃダメだよぉ」
そのきっかけを作った第一号ちゃんがボストンバッグを両手で持って降りてきた。確かあれは俺の部活動グッズ、ジャージとシューズが入っているやつだ。
「りゅう兄ちゃんもほら、遊んでいないで荷物運んでよね。今日中に荷物の運び入れまでやるんだから」
「おおっと、悪い悪い」
ケイに怒られて、やっとりゅう兄は俺を解放する。俺はそのままそこに座り込んでしまった。
「はぁ、はぁ、こ、殺されるかと、思った」
「だいじょうぶ?お兄ちゃん」
ケイはその前にちょこんとしゃがんで俺の顔を覗き込む。
「ああ、心配してくれてありがとな」
頭をなでてやると、ケイはとっても嬉しそうな顔をする。それを見ているとなんか俺も和んだ気持ちになれた。
「それより将仁さん。さっき、常盤さんから電話がありましたよ」
そのケイと一緒に降りてきたらしい鏡介が、手に持っていたダンボール箱をよっこらしょと降ろしてから口を開く。
「常盤さんが?」
「ええ、先に行って待ってるそうっす」
なんでも、家の様子を確認するんだそうだ。実は昨日は結局あのまま帰ってしまったので、間取りや住所は知っているがその家がどんな家なのかは俺も知らないのだ。
そんな状態で引っ越そうというのだから、冒険というか無謀というか。でも、うちのモノ軍団は元々俺の所有物だった連中だからか、俺が決めたことには基本的に従ってくれる。まぁそんなんだから昨日家を決めて今日引っ越すなんてことができるんだが。
しかし思い返してみると、その日程を決めたのは俺じゃなくて常盤さんなんだよなぁ。なんか、俺、常盤さんに振り回されているような気がするぞ。
よし、あっちに行ったら、家の主は俺だって、はっきりさせてやろう、うん。といっても、その家自体は常盤さんの所有物なんだけどな。
「おーい、りゅうのすけー、荷物上げるの手伝えよー」
と決意を新たにしていると、ヒビキが中庭に停めたアルミバン(荷台が箱状になったトラックをこう言うんだそうだ)の入り口でベッドを片手で担いで空いた手を振っている。
あのアルミバンは、りゅう兄が今日乗ってきたやつだ。この前うちに乗ってきた車と違うのでどうしたんだと聞いたところ、レンタカーから借りてきたんだそうだ。
ちなみに、これも今日はじめて知ったんだが、うちの兄貴はなぜか大型の自動車免許を持っている。もし職を失ったときに運送屋でも食えるように、なんてことを言っていたが、いくらなんでも大学を出ていきなりトラドラをするのはないと思う。
そしてふと反対側を見ると、両腕を広げたシデンが、地面を蹴って今まさに離陸するところだった。その時に気がついたんだが、そのシデンの頭の上で何かがかなりのスピードで回転しているようだ。飛行機の先頭で回るといえばプロペラだが、そんなもんがあいつにあったか?あいつの頭にあったのは髪の毛だけだったと思うんだが、まさかそれで飛んでるんじゃないだろうな?
なんてなことを考えている間にシデンの奴は離陸し、急上昇すると真っ直ぐ俺の部屋があるあたりに飛んでいった。
「飛行機って、垂直に飛べるんだな・・・・・・」
なんか感心してしまった。
どうも、作者です。
荷物運び出し第2弾です。
前回に比べると普通なので面白くないかもですw
次回も乞うご期待!