03.そして何かが動き出した その24
晴れ渡った空が、大きな窓いっぱいに広がっている。
雲ひとつない空から照りつける太陽は、コンクリートとアスファルトで固められた広大な地面をてらし、その上で動きまわるものをはっきりと映し出す。
それは、航空機だった。俗にジャンボジェットと呼ばれる巨大な旅客機が、空港のターミナルビルからいくつも見えている。
そして、そのターミナルの待合スペースに、一人の女が立っていた。彫りの深い顔立ちに豊かな金色の巻き毛、そしてすらりとした体をブランドもののコートで包んだその姿からは、一種の気品のようなものが漂っている。
「お嬢様。飛行機の準備が完了いたしました」
そこに、スーツ姿の背の高い男が近寄ってきて声をかける。髪は黒く、顔立ちも東洋系だが、若くも老けても見える不思議な感じの男だ。顔立ちにはいささか似合わない口ひげと仕草の落ち着きぶりがその年齢不詳ぶりに拍車をかけている。
「そう。ご苦労様、セバスチャン」
お嬢様と呼ばれた金色の巻き毛の女は、どう見ても東洋人であるその青年の言葉にそれだけ答えると、すっと横を見る。
そこには、巻き毛の女より少し背の高い、女性用の黒いスーツに身を包みサングラスをかけたショートカットの女が立っていた。
「イリーナ、これからのスケジュールはどうなっていて?」
「はい。午前10時50分にこのロサンゼルス国際空港を飛び立つ許可をいただいております。ただ今の時間は8時45分ですので、まだしばらく余裕があるかと」
イリーナと呼ばれたサングラスの女は、手元のファイルを見ながらまるで秘書のように答える。
「途中、ハワイにて各種補給のため3時間ほど駐留しまして、日本に着くのは、現地時間で17日の午後6時頃になる予定です」
「フライトまでに、時間がかかりすぎなのではなくて?」
“お嬢様”は、不服そうな表情でそう口にする。
「ドールのメンテナンスを行うためです。飛行機に乗せてしまったら整備が難しくなりますから」
イリーナは、ファイルに視線を落としたままそう答える。
「そう、では仕方がありませんわね」
“お嬢様”はそう答えると、手にもった扇子で口元を隠しながらあくびをする。
「でも、お嬢様。今更ですが」
不意に、イリーナがファイルを閉じて”お嬢様“のほうを向く。
「お嬢様がわざわざ日本まで出向かれなくても」
すると、“お嬢様”はすいっとそのイリーナのほうに向き直った。
「あら、だからこそ、ですわ」
そして得意げな顔をする。
「私の威光でひれ伏させてこそ、その者を意のままに使えるというもの。それに、日本はお父様のお生まれになった国、訪れてみたいと常々思っていたところですわ」
そして、口元に手の甲を当てて笑ってみせる。
「少し構内を散歩して来ます。あなたたちは準備を進めてちょうだい」
そして、深々と頭を下げたイリーナを尻目にすたすたと歩き出す。
だが、そこにさっきまでいたはずのもう一人、セバスチャンの姿はそこにはなかった。
彼は一足早く待合スペースの隅へと移動し、そこにあるベンチのひとつに腰かけていた。
背中合わせになった別のベンチには、ハンチング帽を被り、手にした新聞に目を落とす一人の男が座っている。
「ホークのお手並み、拝見といこうか」
つぶやくような声で、セバスチャンがそう口にする。
すると、新聞を読んでいた男が声を返してきた。
「判っている」
そして新聞から目を上げる。
男は、以外にも若かった。10代後半ぐらいだろうか、ぱっと見た限り、セバスチャンより若い。だが、削いだような目つきは、とても普通の人生を送った者のそれではなかった。
そのまま、男は立ち上がると、“お嬢様”の後ろを尾行するように歩き出す。
セバスチャンはそれを、ガラスのような目で眺めていた。
どうも、作者です。
やっと3日めが終わりました。
ここで出てきた人たちもそのうちシナリオにからんできます。
はたして、どう絡んでくるのか?
乞うご期待!