01.それは1本の電話から始まった その5
「もう一回聞くけど、君は誰なんだ?」
俺の目の前に、さっき出会った女の子が、ちょこんと正座して、にこにこしながらじっと俺を見ている。
ここは俺の部屋。結局、つれてきてしまったのだ。このままでは明らかに犯罪だ。
「お兄ちゃんの携帯だよっ♪」
俺の質問に、その子は何のためらいもなくそう答える。
「・・・・・・ホントか?ホントーにか?」
「あー、まだ疑ってるぅ。そこまで言うんだったら、証拠見せよっか?メール読んでみる?」
メール、と言われて、はたと気づいた。俺は、メールが他人に読まれないようにロックをかけているんだ。読めるはずがない。
「よーし、読めるもんなら読んでみろ」
売り言葉に買い言葉でそう答える。
すると、その子はひるむどころか逆に嬉しそうな顔をした。
「あ、いいの?じゃあ一番新しいのね。えーと、着信時刻は9月13日12時20分。タイトルは、今日の夜のこと。差出人はシンイチさんで、内容は『今夜のサッカーの試合、見るんだろ?』で、お兄ちゃんはこれに、『俺は全部見る前に寝るかも。結果だけ後で教えろ』って返してるでしょ?」
「うわーっ!?」
あろうことか、あまりにすらすらと、しかも何も見ずに、その子は見ることが出来ないはずのメールを読み上げたのだ。
思わず声を張り上げてしまった。
「もう、そんな驚かなくたっていいじゃない。読めって言ったのはお兄ちゃんなんだし」
耳を塞いだその子が、迷惑そうな顔をして俺を睨む。が、いきなり真顔になると、
「メールが来たよおにいちゃん〜」
と、いきなり歌いだした。しかも、俺がメール着信音にしている某名作マフィア映画のテーマに合わせてだ。渋いはずのこのミュージックも、こんな女の子の声で、しかもなんかかわいい歌詞をつけて歌われるとなんか全然違うもののような気がしてしまう。
その時、俺は、その子の胸元がチカチカ光っているのに気づいた。
顔を近づけてみると、それは首に下げたペンダントのヘッド部分だった。それは四角く、確かに携帯の画面ぐらいの大きさがある。そしてそこには、俺の携帯にメールが着信したときに画面に出るアニメーションが、見事に表示されていたのだ。
ここまでやられると、本当に携帯なのかも、と思えてしまってくる。
「あ、お兄ちゃんエッチぃ。私の胸のぞいてるぅー」
「へっ、あ、うわっ、ごめん」
「うふふふっ、ねねね、メール、見ないの?それともまた読みあげる?」
歌が終わると、その子は楽しそうに俺の横に擦り寄ってくる。
「あ、後でいいよ。俺はテレビを見る」
目の前の現実から逃避するため、俺はテレビを見ることにした。
「じゃあ私も見るー!横に座っていいでしょ、お兄ちゃん?」
するとその子は、まるで当たり前のように俺の横に座ってきた。なんというか、ずいぶんと人懐っこい子だ。
うちのテレビは、60インチの大画面プラズマテレビだ。俺一人しか見ないんだからもっと小さいやつで、もっと古いブラウン管タイプで良かったんだが、うちのお袋が懸賞で当てたから引っ越し祝いに、ってことで持たされたんだ。
60インチは伊達ではなくでかい。迫力はあるんだが、部屋に比べてでかすぎるのが難点だ。
「わぁ、テレビって見るの初めて〜♪」
その子は、目をきらきたさせている。そんな姿を見ていると、こっちまでなんとなく楽しい気分になってくる。
俺は、テーブルの上においてあったリモコンのスイッチを押す。
「あれ?」
点かない。何度かスイッチを押すが、やっぱり点かない。
「あれ?電池切れたか?」
と思ってリモコンの裏をひっくり返したとき、俺のケータイだと言う子がくいくいと俺の服の袖を引っ張った。
「ねえ、お兄ちゃん・・・・・・メインスイッチ、入ってないんじゃない?」
「・・・・・・あ」
そりゃ点かなくて当たり前だ。主電源マークの横にあるLEDが消えている。
「あははは、こりゃ参った」
笑ってごまかすが、いつまでもそうしていてもテレビは点くわけがないので、立ち上がってLEDの横にある主電源のボタンを押した。
「今朝、お前のスイッチって、切っていったっけ?」
カチッ。
スイッチが入った、その瞬間。
甲高い、耳鳴りのような音がした。
そして、同時に暴力的なまでに凄まじい光があたりを包む。
「ま、まさかぁーっ!?」
その光に押し流され、俺は目をつぶってしまった。