03.そして何かが動き出した その22
その日の夕食は、立食スタイルになった。ダイニングのテーブルに結構な量の惣菜がいくつも並び、茶碗と吸い物の椀、そして箸は用意されているが、椅子が足りないため全員が立って食べることになったのだ。ちなみにこの食事は全部レイカが一人で作ったそうだ。
せっかくだからということで、常盤さんも夕食を一緒にすることにした。お客さんなんだから座ってもらおう、と思ったんだが、みんなとの交流を深めたいということで、同じスタイルで食べることになった。
「何、お前もか!?」
夕食の席で、さっき尾行されたらしい、という話をしたところ、俺の耳を疑うような言葉が返ってきた。
俺とは別行動で、増えたメンバー分の備品と食料の追加買出しに出ていた鏡介らも、やはり何者かにつけられていたというのだ。
そのときのメンバーは、鏡介、ヒビキ、レイカ、そしてシデンの4人だ。鏡介はともかく、他の3人は目立つ(なにしろあのままの格好で行った)からさぞやあっちも尾行しやすかっただろうなぁと思いきや、あっちの尾行もあまりに下手だったため、逆に捕まえて締め上げたんだそうだ。
「どんな奴だった?」
「どんなって言われても、見るからにパシリって感じだったぜ」
「その点については我も同感だ。まさにこれこそ一番の下っ端であるという輩であったな」
だが、そこでレイカが一言こう言った。
「でもあれは、少しやりすぎだと思うのだけれど」
「やりすぎってなあに、レイカお姉ちゃん?」
「あ、俺らをつけていたのって二人組みだったんですけど、ヒビキさんがその一人をぶん投げて星にしちゃいまして」
「ゑ!?」
「ちょ、こら鏡介、それは言うなよ。ちょっと力が入っちまっただけだって」
「ほう。貴様はちょっと力が入っただけで成人男子を一人星にするのか」
な、なんだそりゃ。思わず、すすっていた味噌汁を噴出しそうになってしまった。いくらバイクのエンジンが何十馬力出ると言っても、それはありえないだろう。
「はわわぁ、ヒビキさん、すごい力ですぅ」
「ヒビキさん、その馬鹿力は制御してくれと、前から何度も言っているでしょう?」
「そ、それを言ったら、レイカだって人のこと言えないんだぞ。逃がさないためって言っても、氷付けにするのはひどくね?」
こ、氷付けぇ!?今度は飲み込んだ飯が胸に詰まってしまった。それじゃホントに妖怪雪女じゃないか。
「まだ暑い日が続くから、ちょうど良いのではなくて?」
レイカはさらりとそう言ってのける。
うーん、こいつらの能力って、モノだったときの能力をはるかに超えているぞ。もしかして俺、とんでもないバケモノを生み出しているんじゃないだろうか。本来の意味で色々な電波が受信できるケイの能力が、まだまだかわいいもののように思えてきた。
「なあ、鏡介。お前って、あれみたいな何かすごい力があるのか?」
思わず、いちばん普通そうな鏡介に聞いてしまった。
「やっぱ、気になります?」
「うん、やっぱり、ああいうことを聞かされるとな」
「んー、ええ、まあ一応ありますよ。あそこまで派手じゃないっすけど」
見せてくれと頼んでみると、鏡介は箸を置いてケイのほうを見た。
その瞬間。鏡介の姿がぶれた。
そして、ケイの目の前に、ケイがもう一人現れた。
「どうかな?」
もう一人のケイが、驚いて目をぱちくりさせる本物のケイの目の前でにこっと笑ってみせる。すごいことに、声までケイと同じだ。
「おい、鏡介、だよな?」
「もちろんっすよ」
俺が声をかけると、そのケイとそっくりな子は、ケイの声ながらもろ鏡介の口調で答える。
言われてよく見ると、その子は左右が逆転していた。いつも右でまとめている髪が左になっていて、服に書かれた模様も全部左右逆、まさに鏡に映したようになっている。
「鏡は、目の前にいる相手の姿を映すものですからね」
そして、もう一人のケイの姿がぶれると、今度はテルミの姿になる。ここでも芸が細かいことに、エプロンのポケットにあるMITSUISHIの刺繍が裏返しになっている。
「これでも、鏡の端くれですから」
そして、また姿がぶれると、もとの(と言っても俺とそっくりの)姿に戻った。
なんかこれって、擬人化というより「妖怪化」のほうが近くないか?と、思ってしまった。
どうも、作者です。
だんだん擬人化たちが人間離れしてまいりました。
でもこれから先もっと人間離れしていきますw
乞うご期待!