03.そして何かが動き出した その20
「もう一回聞くけど、シデンって名前はイヤか?」
今度は俺がその子の両肩に手を置いてじっと見つめてみる。
すると、その子は困ったような表情を浮かべながら、恥ずかしそうに頬を赤らめる。なんか、ちょっとかわいいぞ。
「う、そ、その、い、イヤというわけでは・・・・・・」
「じゃあ決まり、お前の名前はシデンだ。いいな」
「う、じょ、上官が、そう仰るなら・・・・・・」
なんか、話し方までかわいくなっている。いつもこうならいいのにな、こいつも。
「んじゃ、シデン。まずは、みんなに謝れ」
肩から手を離した俺は、そう言ってシデンをみんなの前に出した。
「なっ!?じょ、上官っ、なぜ私が頭を下げねばならぬ!私は」
ちょっとの間面食らったシデンは、じたばたと抵抗する。が。
「シデンさん。状況は貴方に不利ですよ?」
そうきっぱりと断言する人がいた。常盤さんだ。
「あなたは、こちらの男性、鏡介さんを皆の前で有無を言わさずに投げ飛ばし、そして、こちらの女性、クリンさんの顔を殴りケガをさせました。これは傷害罪に問われてもおかしくありませんよ?」
そこまで言われて、シデンは言葉を詰まらせてしまった。
「な、そういうわけだから、謝っとけ。同じ家に住むモノ同士、いつまでもいがみ合っていてもしょうがないだろ」
お説教された子供みたいな顔でこっちを見るシデンの肩をぽんぽんと叩いて促す。
「ううう・・・・・・わ、わかりました」
完全に意気消沈してしまったシデンは、あきらめたようにモノ軍団に向き直る。
と思うと、突然ものすごいスピードでうずくまった。
「申し訳ないッ!全てはこのシデンの思慮の浅さが招いた事、許していただきたいッ!」
土下座だった。俺、そこまでやれと言ったつもりはないんだが、極端な奴だな。
どうやら、モノ軍団もそこまでやられるとは思っていなかったみたいで、みんなそろってぽかんと口をあけている。
「・・・・・・あ、いや、その、あんたのことを乱暴にあつかったのはこっちだしさ」
最初に口を開いたのは、そもそものきっかけを作ったヒビキだった。
「だからさ、頭を上げてくれよ」
そしてモノ軍団から一歩進み出てかがみこんだ、その瞬間。
「かかったな」
土下座ポーズのまま固まっていたシデンの口から、そんな声がした。
と思った瞬間。シデンがさっきの土下座もかくやというスピードで上体を起こした。と同時に、まるで弾き出されたように、シデンの右掌底が繰り出された。
「わっと!?」
それを、ヒビキは真正面から受け止める。バチンッという音が聞こえ、ふたりはその体勢で固まっていた。
「ふん、この一撃を受け止めるとは、なかなかやるではないか」
右手を受け止められた状態のまま、シデンが口元に笑みを浮かべる。
「へっ、このヒビキ様に不意打ちをしかけるなんざ十年早いんだよ」
なぜかヒビキのほうも口元に笑みが浮かんでいる。
どうも、この構図は、ライバル誕生ってとこみたいだ。
「そんなことをしていると、こっちがいつまでも片付かないのだけれど?」
その場に、まったくの外野だったレイカからの声が投げかけられ、そこにいた全員が食事中だったということを思い出したのだった。
どうも、作者です。
雨降って地固まる、ってことで。
次回から、ちょっとだけ雲行きが怪しくなってきます。
乞うご期待!




