03.そして何かが動き出した その18
その日の昼飯は、レイカ力作のざるうどんだった。しかもどうやら手打ちらしく、適度な歯ごたえがあり、もちもちした食感を持ったそれは、学食や立ち食い蕎麦屋で食うそれなんか比べ物にならない美味さだった。
さらに、そのおかずとして出されたのは、さっき見たかき揚げをはじめ色々な野菜の天ぷらが大皿に山盛りになっている。これも具材への熱の通り加減といい衣のサクサク感といい、文句なしの絶品だ。
あんな短時間でこれだけのメニューを作るなんて、ちょっとどころかものすごい手際だ。
ただ惜しむらくは、レイカ本人とゼロ戦娘(仮名)が増えてしまったためにうどんの漬け汁を入れるお椀が足りなくなってしまったことだ。もっとも、レイカはそうなることを予測して「味見を兼ねて」先に食べたらしい。というわけで、今は給仕に専念している。
「こ、これはッ!?」
そのうどんを口に入れたテルミが、そう口にして硬直した。かと思うと一息で全部をすすり切り、さらにうどんの漬け汁まで一気に飲み干して箸を置いた。
そして席を立つと、険しい顔のままレイカのところに歩いていき、彼女の目の前で止まった。
「・・・・・・」
「なに、かしら?」
なぜかすごい迫力を出しているテルミに、レイカもいささか気圧されている。
すると、テルミは突然レイカの手を取って。
「私の完敗でしょう、レイカさんっ!厨房は、あなたが担当するのが、ふさわしいでしょうっ!」
一気に破顔した。
「全く、驚かさないで。怖い顔をして迫ってくるから、不安になってしまったわ」
レイカも、ほっとした表情になる。そして、レイカがおかわりを勧めると、テルミも喜んでそれに応じていた。家事が出来るもの同士の住み分けが成立した瞬間だった。
「うまいっ!おかわりっ!」
その横で、ヒビキはいつもどおりの食欲を見せて、ものすごいスピードでうどんをたいらげていく。・・・・・・うどんで走るバイク。なんだかすごく環境によさそうだ。
「ねぇねぇお兄ちゃん。ケイね、お箸うまく使えるようになったよー!見て見てー!」
かと思うと、ケイが箸をこっちにぐっと突き出してみせる。確かに、この前に比べると上手になっているようだ。
「ねねね、ケイ偉い?偉いでしょ?」
なんか日を追うごとにケイの精神年齢が低くなっているような気がする。
「フン、軟弱な。その程度のこと、日本人なら出来て当たり前だ」
その横で、こっちを向くことすらせずにうどんをすすっていたゼロ戦娘が、淡々と言い放つ。・・・・・・ちょっと、トゲのある言い方で。
当然、ケイはむくれる。が、俺が頭をなでてやると、不愉快な言葉なんか聞かなかったみたいにニコニコの笑顔に戻る。なんか俺もケイのあしらいがうまくなってきたなぁ。
ゼロ戦娘は、一瞬だけこっちをぎろりと睨んだ後にふいっと正面を向き、うどんをすすりはじめる。なんか機嫌が悪いみたいだ。
「まあまあ、そう怖い顔するなって。みんなうちにあったモノなんだから、えーと」
「零式艦上戦闘機二一型です、上官殿」
あ、忘れてた。こいつ、まだ本当の意味では名なしなんだ。
「ちょっと、それじゃ長いからさ。もっと短い名前にしよう」
「れいしきですからぁ、レイさんはどうでしょうかぁ?」
最初に意見を出したのはクリンだった(顔の手形はいつのまにか消えていた)が。
「それはさっき却下されたばかりよ」
自分につけられそうでつけられなかった名前だからだろうか。レイカが速攻で反論する。
「んじゃ、ゼロ戦からゼロ子ってのはどうだい?」
「うーん、いまいち、洗練されていませんね」
めがねをなおした常盤さんが、厳しい指摘をする。
「ゼロは止めようよぉ、なんかかわいくないもん」
「それでは、二一型ですから・・・・・・」
気がついたら、女性陣はまだ名前が決まっていないゼロ戦娘や常盤さんまで巻き込んでああでもないこうでもないとおしゃべりを始めている。
そして、男性陣、つまり俺と鏡介は、そこからちょっと取り残されていた。
「なぁ、鏡介よ」
「皆まで言わなくても判るよ、将仁さん。お互い、大変っすよね」
「まったくだ」
そして俺たちは、苦笑しながらうどんをすすった。
どうも、作者です。
みんなで昼ごはんです。
次は、新顔のゼロ戦娘の名前が決まります。
一応、ゼロ戦に関係が無くは無い名前になります。
乞うご期待!