03.そして何かが動き出した その17
とはいえ、さすがに6人目ともなると慣れてしまうもので、光が収まったかなと思ったところで目を開ける。趣味の道具だったものだけにどんなのが出るのか、ちょっとだけ楽しみだ。
「ふはははははは!」
な、なんだ?いきなり笑い声が?
思わず目を開ける。すると、そこには、深緑色の和装の女の子が、なんか偉そうに腕組みをして立っていた。和装と言っても、大正時代あたりの女学生が身につけているような上張りに女袴だ。だが、袖にはでかでかと日の丸が描かれており、袴のすそから見える足は、第二次世界大戦の飛行機乗りが履いていそうな、頑丈そうな皮のブーツになっている。やっぱり戦闘機だからか。
そして、ヘアスタイルも少し変わっていた。肩口あたりで切り揃えられた髪は黒色なのだが、頭のてっぺんで髪を1房だけまとめて後ろに流しており、なぜかその髪だけが銀色をしている。しかもその髪だけが妙に長く、背中にかかっている。
「零式艦上戦闘機二一型、上官殿からの召集により、唯今参上した!」
その女の子は、力の入った目元で俺を見つめ、もとい睨み付ける。元がゼロ戦だからだろうか、きりっとした、サムライっぽい感じの子だ。
「あ、う、うむ」
なんであんたはのっけからそんなに偉そうなんですか、と、突っ込みたいのに気圧されてしまった俺は、上官と呼ばれたのにそれらしくない生返事をしてしまう。まさか怒ったりしないよな、ちょっと不安になり俺はそのゼロ戦娘(正確に言えばラジコン娘なんだろうが、なんとなくこっちのほうがしっくり来る)を見てしまう。
が、その時、ゼロ戦娘は、俺を見ていなかった。
「な、なんだよ?」
その目は、確かにヒビキを睨んでいた。しかも明らかに怒っている。
「貴様」
腕組みを解いたゼロ戦娘は、その手でびしっとヒビキを指差した。
「さっきは、よくも痛い目に遭わせてくれたな。その落とし前、きっちりとつけさせてもらう」
そして、すっと腰を落として身構える。何か武術の心得でもあるんだろうか。そういや、全盛期のゼロ戦って、格闘戦が得意だったんだっけな。格闘戦といってもいわゆるドッグファイト、近距離での空中戦のことなんだが。
「なんだ、やるのかい?」
売り言葉に買い言葉、というわけでもないんだろうが、ヒビキも身構える。
ちょっと場違いなことを考えていたら、いつのまにか話が危険なほうに進んでしまっていた。
「ちょ、ちょっと、こんなところでケンカなんて、止めてくれよ。狭い部屋なんだから」
俺が現状の把握に手間取っていたとき、その二人の間に、鏡介が割って入った。
「じょうか・・・・・・ではないな!?邪魔するなっ!」
その姿を見たゼロ戦娘は、俺と同じ姿の鏡介を目にして一瞬ためらった。が、次の瞬間。
「うわ!?」
鏡介の体が大きく縦回転し、そして、床に仰向けになって投げ出された。ゼロ戦娘が、鏡介の手を取り、柔術の達人のように一瞬で投げたのだ。どうやらこのゼロ戦娘、マジで武術の心得がありやがるらしい。
ゼロ戦娘は、床に転がったままの鏡介をすばやくまたぎこし、素早くヒビキに迫る。
「くらえ!」
他の誰もが、それどころかターゲットにされたヒビキですら動けない。それほどのスピードで、ゼロ戦娘は、ヒビキの顔目がけて掌底を突き出した。さすがゼロ戦、格闘戦は強い、じゃなくて、止めないと!と思うんだが、体はついていっていなかった。
ごっ。
「あっ!?」
だが、その掌底がヒットした瞬間、ゼロ戦娘とヒビキ、そして他の誰もの顔が引きつった。
ゼロ戦娘の掌底は、確かに顔面を捉えていた。だが、それは、ヒビキのそれではなかった。
あわててゼロ戦娘が手を引く。
目をぎゅっと閉じた、白い髪の娘が、そこにいた。
その娘は、ちょっとの間のあとで、目を少し開き、口を開いた。
「みなひゃぁん、ケンカひひゃ、らめれふよぉ」
「クリン!?」
クリンだった。いつものように、ほわわんとした笑顔を浮かべているが、顔面に掌底を喰らった直後ということもあり痛々しく見えてしまう。
「す、すまぬっ!」
「大丈夫か!?」
ゼロ戦娘は素早く離れ、それ以外のそこにいた人物が一斉にかけよる。
「ら、らいりょうふ、らいりょうふ、わらひ、ヒュフォンヴィ、れふからぁ」
クリンはいつものほわわんとした笑顔で答えるが、その顔にはゼロ戦娘の手形が赤くなって残っている。
「・・・・・・くすっ」
その手形があまりにはっきりしていたためだろうか。
誰とも無く、笑いが漏れた。そしてそれはあっという間に全員に伝染していった。
少なくとも笑い出したのは俺じゃないが、ついつられて笑ってしまっていた。
どうも、作者です。
やきもちやきなゼロ戦娘の登場です。
登場直後からなにやらトラブルメーカーの匂いがする彼女ですが、かわいがってやってください。
次回も乞うご期待!