03.そして何かが動き出した その15
結局、全員がダイニングキッチンを追い出され、すでに個室ではなくなった俺の部屋で梨を食べながらまったりとテレビを見ることになった。
そういうわけで、今、2日ぶりにテルミが前に立って、60インチのテレビ画面を広げていた。
そのスクリーンに映し出されるお昼の情報番組を、今はみんなで仲良く見ている。
「なぁんかこういうのーんびりした時間ってのも、いいもんだねぇ」
ヒビキが俺の横から手を出して、その梨を片端から楊枝で刺してはひょいひょいたいらげていく。
「はい、お兄ちゃん、あーん」
素早く俺の横に陣取ったケイが、楊枝に刺した梨を俺に差し出してくる。
ぱくりとやると、ケイはにこーっと本当にうれしそうな笑顔を見せた。ちょっと俺も幸せな気分。
その俺の後ろでは、クリンと常盤さんが何か話している。
「舌が、ですか?」
「はいぃ。ごらんになりますかぁ?」
「ええ、ぜひともこの目で」
「それでは〜」
その後、ちょっとの間だが二人の間の会話が途切れた。
「・・・・・・な、なるほど」
その後に聞こえたのは、驚きと関心の入り混じった常盤さんの声だった。一体、何を見せたんだろう、後で教えてもらうことにしよう。
「皆さん、私の分の梨も残しておいて欲しいでしょう」
テレビ画面の後ろから体を乗り出し、こちらを見ていたテルミが、声をかける。この前見ていたときには気がつかなかったが、どうやらテルミはテレビの仕事、つまり画面を出しているときには足まで動かなくなるらしい。
「難儀だな、テルミも」
「でも、これこそが私の本来の役目ですから、疎かにしてはならないでしょう」
俺が声をかけると、テルミは立ったまま殊勝な言葉を返してくる。
「はい、テルミお姉ちゃん。このままだとなくなっちゃいそうだから」
「ありがとうございます、ケイさん」
ケイが立ち上がって、楊枝にさした梨を持っていくと、テルミは嬉しそうにそれを受け取った。
「ちょっと、将仁さん。すごいッスよ、レイカさんって」
気になったのか、それともテレビの内容が気に入らなかったのか、ダイニングキッチンの様子を覗いた鏡介が驚いた声を出す。
なんだろうと思って覗き込むと、確かにすごい光景が広がっていた。
流しでは狭かったのか、レイカはまな板をテーブルの上に置いていた。そして、さっき梨を取り出した時のように左手を右の袖の中に突っ込むと、また何かを取り出した。
それは、どう見てもその袖には収まらないほどの、長ネギだった。2本が束になったそれのテープをはがすと、まず根を取り、青い葉の部分と白い根の部分を切り分ける。
そしてそこからがすごかった。剣のように包丁を掲げたレイカが、そのネギに包丁を当てるや、見る間にそのネギが細かく細かく刻まれていったのだ。そしてあっという間に、30センチほどはあったネギの白い部分が全て薬味になってしまった。
その横で青い葉の部分もまたたく間に細かく刻まれる。そしてそのネギの葉を近くのボウルにまとめて入れると菜ばしでかき混ぜる。そのボウルには何か別のタネが入っていたらしく、白い液体の中に赤いものがぱらぱらと見える。桜海老かな?それとも紅しょうがか?
かき揚でも作るんだろうか、見とれるほどに手際がいい。
「何?」
そこで、自分を見ている俺たちにやっと気づいたレイカが、手を動かしたまま声をかけてくる。
「あ、いや、ものすごい手際だなって思って」
「あたりまえでしょう。野菜は切った瞬間から鮮度が落ちていくのだから。ほら、邪魔するんだったら引っ込んでなさい」
レイカが追い払うように菜箸をくいくいと動かしたので、俺と鏡介はそのまま引っ込んだ。
どうも、作者です。
ご飯が出来るまでの待ち時間です。
まったりとお楽しみください。
次は、ちょっとハプニングがあります。
乞うご期待!




