03.そして何かが動き出した その14
「さて、呼んでもらったお礼も兼ねて、お昼ご飯は私が準備するわ。構わないかしら?」
そんな俺の様子を横目に、冷蔵庫さんは遠慮なくそう言い放ってくれる。
「ち、ちょっと待って欲しいでしょう、この家の家事は、私の役目でしょう」
それに対し真っ先に反論したのは、テルミだった。なんか、本当は炊事洗濯掃除といった家事には一番縁遠い家電製品のテレビのはずなのに、メイドさんがすっかり板についた感じだ。というか、何故にメイド?と今でも疑問に思う。テレビで有名な某家政婦のごとく、うちの秘め事でも見るつもりなんだろうか。
「まあまあ、テルミさん。せっかく本人がやる気になっているのだし、ここは任せてもいいのではないかしら」
そこに助け舟をだしたのは、常盤さんだった。そして、常盤さんはテルミにそっとこう耳打ちする。
「新顔さんの力量を測る、いい機会になるでしょ?」
だと。常盤さんって、以外に策士みたいだ。弁護士だからかな。
「そうそう、その前に、将仁くん」
ふと、その冷蔵庫だった人が俺に向き直る。
「物事には、順序というものがあると、思わないかしら?」
そして、じっと見つめてくる。
「きゃあ!?」
と同時に、なぜか俺の横で悲鳴があがる。
見ると。なぜか鏡介(今でもまだ、「俺?」とちょっと驚くが)が、ケイの首と手を後ろから羽交い絞めにして押さえている。ケイのやつ、また何かやろうとしたんだろうか?
「将仁さん、名前、名前!」
はなしてよぉっ、とじたばたと暴れるケイを押さえながら、鏡介が言葉を投げかける。
そして、それでやっと何をするのかを思い出した。もう5回もやっているのにどうして忘れるかな、俺。まだ慣れていないんだな、これって。
「名前、って言ってもなぁ、じゃあ冷蔵庫だからレイ」
「ぶぅーっ、それじゃケイと区別できないよぉ!」
鏡介に押さえつけられながら、ケイがすかさず反論してくる。言われりゃ確かに、ケイとレイだとほとんど同じだ。が、「冷蔵庫だからレイ」というのは、なんか響きがいいから生かしてみたい。
「じゃあ、レイコ、はやめて、レイカはどうだ!」
個人的には、口にしてみてもイイと思った。雪女→寒いところにいる→零下何十度→レイカという発想なんだが、これなら「レイ」も入っているから個人的にもアリだと思う。
ちなみにレイコはレイゾウコの短縮だがちょっとやぼったい感じがしたのでやめた。
「どうだって言われてもちょっとそれは・・・・・・」
「え、ダメ?」
「ううん、気に入ったわ。じゃあ私のことはこれからレイカと呼んでね」
ちょっとびびらされてしまったが、結果はまぁ気に入ってもらえたらしいからいいか。・・・・・・からかわれただけのような気もするが。
「それでは、仕切りなおしに。少し待っていて」
その冷蔵庫女あらためレイカは、そう言いながら、自分の右腕の袖に左手を突っ込み、なにやらごそごそとやっている。
と思うと、手に何かを持って引っ張り出した。
今日、ケイたちが買ったんだろう、透明なフィルムの袋に入った、梨だ。なんでそんなところに入っているんだろうと思うまもなく、レイカは袋の口をあけると、その梨を手早く洗い、そして、いつのまにか手にした包丁で皮を剥き始めた。
その様子を見ていた全員が、一瞬どよめいた。
梨に包丁を当てた瞬間からほんの数秒で梨は丸裸になり、4つに切られ、芯まで取り除かれて、大皿の上に乗せられたのだ。プロ料理人も真っ青になる早業だ。
なおもレイカの手は止まることなく梨を剥き続け、一袋5個入っていたそれはものの1分ほどで真っ白なデザートの山へと姿を変えてしまった。皮むきのビデオを早回しで見ているような感じだ。
「すっげ・・・・・・」
「ふふん。私も無駄に長いこと台所にいるわけではないのよ」
そう言いつつも、ちょっと照れくさそうに笑う。と、突然、その梨が山盛りになった大皿が俺の前に差し出される。
「それじゃ、手伝わない人は邪魔だから、隣の部屋でこれでも食べて待っていてちょうだい」
そして、梨を受け取った俺は、レイカに部屋を追い出された。
どうも、作者です。
冷蔵庫に名前がつきました。
最近は料理できる冷蔵庫もあるので、こんなのもアリかなと。
次また、まったりした時間が流れます。
乞うご期待!