03.そして何かが動き出した その12
「ただいまー」
「おう、お帰りぃ」
ドアを開けると、ヒビキが出迎えてくれた。
中に入ると、買ってきた食料品を冷蔵庫にどうやって入れるかをああでもないこうでもないとやっているテルミ(ああしていると本当にメイドさんみたいだ)と、新しく買ってきたのであろう皿を洗っている鏡介の姿が目に入る。
クリンはどこに行ったんだろう?と思っていたら、洗面所から、見覚えのあるジャージとTシャツを着て出てきた。ちょっと残念だ。
こうして改めてみると、うちの中が本当に狭くなったな〜と思ってしまう。
「引っ越しを考えたほうがいいかな、こりゃ」
「え?引っ越すの、お兄ちゃん?」
俺のつぶやきを耳ざとくケイがききつける。そして。
「ねぇねぇ常盤さん。お兄ちゃんが、引っ越したいんだって」
「あら、そうなんですか?では、心当たりを探っておきましょうか」
常盤さんまでがそのつぶやきに乗り気になっている。俺がまだ、簡単に引越しの資金が簡単に出せない、一介の学生であることを忘れているんじゃないだろうか。いや、そのへんは出してくれるのかもしれない。
まあ、あまり気にしないほうがいいだろう。実際に引っ越すと決めたわけじゃないんだ。
「よう、将仁の奴が帰ってきたんだからよ、メシにしない?」
「ちょっと待ってほしいでしょう、もう少し片付けないと」
「んー、どれどれ」
そして、冷蔵庫の前に陣取る二人の後ろから覗き込んだ。
「うわ、こりゃすごいな」
そして、中の様子を見てそう口にしてしまった。なにしろ、今までほとんど空っぽだった冷蔵庫の中が、食料品でいっぱいだったからだ。
うちの冷蔵庫は、3ドアタイプの大型冷蔵庫だ。とうてい一人暮らしで使うようなサイズじゃないんだが、実家のほうで冷蔵庫を買い換えることになったときに「古いのもまだ使えるからお前が使え」ということで持たされたシロモノだ。
古いと言っても、まだ5年ぐらいしか経っていないから十分すぎるぐらいに使える。うちのお袋曰く、モーター音が大きくて気になるんだそうだが、俺には別に気にならない程度だ。
「大丈夫なのかな、こんなにいっぱい詰め込んで」
二人の後ろから身を乗り出す。と無意識のうちに左手が冷蔵庫についていた。
「この程度なら大丈夫でしょう、逆に今までが少なすぎたのではないでしょうか?」
「確かに、さっきまではほとんど空っぽだったもんなぁ」
「まあ今までそんなに入れる必要はなかったからなぁ。今までが逆にやりがいが無かったのかもな、お前も」
と、そこまで言った瞬間。
「うっ!?」
きいぃぃぃん。
あの耳鳴りのような音が、聞こえてしまった。
「やっちまったーーーーーーーーーっ!」
そして、目の前が真っ白になっていく様を見ながら、俺は叫んでいた。しかも、今までと違い、俺以外に人がいる前で、だ。
当然ながら、その光の波を受けたほとんどは、悲鳴とも歓声とも取れる声を上げている。
そして、俺の手から、冷蔵庫の感覚がふっと無くなった。
どうも、作者です。
すいません、新しい擬人化登場と言っておきながら、登場する前で切ってしまいました。
次回にはちゃんと登場します。
乞うご期待!