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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
16.新旧おやくだち合戦
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16.新旧おやくだち合戦 その24

「しかしこう改めてみると、なかなかの(さら)し者だな」

「何言ってんだよ、大体お前は自分で立候補したんじゃねえか」

「そりゃそうだが、こんな派手だとは思わなかったんだよ」

呂布(りょふ)は三国志最強がうたい文句なんだからなんだからそんぐらい派手なのがいいんだって」

うちのモノ襲撃がひと段落ついたところで、俺とヤジローは普段だったら絶対にしないお互いの格好をネタにだべっていた。

俺もヤジローも、三国志の武将の格好だ。俺は曹操(そうそう)、ヤジローは呂布をイメージしている。明日から始まる学園祭でする、歩く広告塔の最終衣装合わせだ。広告塔メンバーは野郎だけだというのと、ウェイトレス用のコスチュームを衣装合わせするという理由で、女子はうちのモノたちも含めて全員教室から出ている。

ちなみに、ヤジローは鎧だけではなく、手に方天戟(ほうてんげき)も持っている。丸棒と段ボールと銀紙で作ったハリボテとはいえ、でかい武器を持っているというのはそれだけで格好がいいもんだ。一方の俺は、腰帯に吊るした剣だけであり、それも丸棒を削って飾りをつけただけ、という本当の飾りだ。

「何やってんだ二人して」

「あっ、来やがったな人材泥棒」

「人聞きの悪いこと言うねー、それやったのはおいらじゃないだろ」

「てめえの女がやったんだろうが。同罪だ同罪!」

と、そこに、こちらもまた中国武将、三国志の主役とも言うべきキャラ、劉備(りゅうび)の格好をしたシンイチが顔を出す。

そのシンイチの顔を見るや、俺は半ば条件反射で文句を言っていた。

実は、今日、この衣装合わせが始まったところで初めて知らされたのだが。俺が居ない間に、広告塔の配置に色々と変更が入っていたのだ。他のクラスが予想以上に広告塔をいっぱい出すことが判ったのでうちも増やそう、ということになったらしい。

それで、三国志の中では主役扱いな劉備、つまりシンイチが率いる(しょく)チームに馬超(ばちょう)黄忠(こうちゅう)を追加し、孔明(こうめい)と五虎将をそろい踏みさせることにしたんだそうだ。もっとも、その追加メンバーのコスチュームは時間の関係上市販のコスプレ衣装をちょっと手直しした程度で、どっかで見た感が拭えない。

だが、それだけなら俺も文句は言わない。酷いのはここからで、追加の馬超と黄忠をやる奴が、元はそれぞれ()夏侯惇(かこうとん)司馬懿(しばい)をやる予定だった奴らなのだ。つまり、魏チームは曹操つまり俺一人になっちゃったのだ。バランスを取る目的でついでに追加された()チームですら変更が無かったというのに、えらい違いだ。

しかも、裏方をこれ以上減らすと模擬店が回らない、と宣言されてしまい、メンバーの追加も見込めない。どうも最近、クラスでの立場が悪くなっているな~、とは感じていたが、これはあまりにもひどいんじゃなかろうか。これはクラスをあげてのいじめなんじゃないか。

当然納得できないから、「いくらなんでも魏が曹操一人だけってのはないだろ」と抗議したら、メンバーを取り仕切った委員長は涼しい顔をしてこう返しやがった。

「魏のメンバーもちゃんと頼んであるわよ」

その時は、頼んでっていうのが引っかかったものの、衣装合わせが控えていたので周りを見て引き下がることにした。

だが、衣装合わせが終わったところで改めて見回してみても、夏侯惇の姿も司馬懿の姿もどこにも見当たらないのだ。それどころか衣装すら見当たらない。もしや、委員長に言いくるめられたのか?と思っていたところ。

がらりと部屋のドアを開く音がして。

「泣く子も黙る張遼(ちょうりょう)文遠(ぶんえん)、ここに見参!」

なんか開き覚えのある声が響いた。

なんかちょっと嫌な予感がしつつもそちらに目をやると、そこには武将っぽい格好をした女の子が立っていた。

張遼とは、さっき本人が言ってたとおり「泣く子も黙る」の語源となるほどに強かった魏の武将だが、問題はそこではない。広告塔の予定にはなかったキャラなことも、うちのクラスの広告塔に女はいないはずだったことも、たいした問題ではない。

「なにやってんだシデン!?」

中国武将の格好をして立っていたのが、シデンだったのだ。戦闘能力の高さは確かに張遼に通じるものがある―うちのクラスの呂布よりは間違いなく強い―が、そんなことはどうでもいい。

「何とは酷いぞ、上官。将の危機に臣下の者が駆けつけるのは当然のことだろう」

「まあ、そういうこったな」

その後ろからぬっと出てきたのは、デザインは似ているがサイズがだいぶ違う武将姿の、緩やかなウェーブがかかった黒髪を束ねた、日焼けした背の高い女。

「ヒビキまで、なんだその格好は」

「よく知らねえが、許褚(きょちょ)だってよ」

許褚。確か曹操のボディーガードみたいな奴で、人間離れした怪力の持ち主だったという。怪力なのはたしかにヒビキに通じるが、こいつも広告塔の予定には無かったはずのキャラだ。

「おにぃちゃーん!」

その後から出てきて俺に飛びついたのは、えらくゆったりした服に、筒の上に板を横たえその前後にビーズのすだれを垂らしたような帽子を頭に乗せた、歴史の教科書に出て来た始皇帝(しこうてい)みたいな服装をした小柄な女の子。頭の右側で髪の毛を纏めているのが特徴的だ。

「な、おい、ケイ、なんだその格好は」

「けんてーだって!」

けんてー?あ、献帝か。曹操が軟禁してたっていう漢王朝のラストエンペラー。確かに無関係じゃないが、どっちかというと曹操を嫌っていたんじゃなかったっけ。

って、そうじゃない。

「何でお前ら、うちのクラスじゃないのにそんな格好してんだ!?」

これが言いたかったのだ。こいつらはクラスの人間じゃない。無償であれば外部から手伝いを呼んでも良いことは暗黙のルールになっている(だからうちのモノたちが何の遠慮もなしに来られるのだ)が、それはあくまでも「準備」の範囲だから許されるもんだと思うんだが。

「広告塔では無い、ということであれば、良いそうよ」

そう答えたのは、献帝ケイの後に入って来たレイカだった。その格好もまた武将のもので、左目に眼帯をしている。どうやら夏候惇(かこうとん)のつもりらしい。なんかそういうのを一番やりそうにない奴だったので正直驚いたが、よく見ると前者3人に比べサイズが合っていない。どうやら、前任者用に作られたコスチュームをそのまま着ているらしい。というか、なんでシデンとヒビキとケイのときはサイズが合っていたんだろう。

「観客がコスプレして歩くことは、禁止されていない。だから、『これはただのコスプレだ』ということにすれば問題にはならないそうよ」

「For years も before から、traditionaly に done な way と聞いたデース!」

そう言って夏候惇レイカの後から顔を出したのは、中国の文官ぽい格好をしたバレンシア。格好からして司馬懿(しばい)なのは間違いないが、金髪碧眼丸眼鏡に中国の文官の格好は違和感がありまくるし、それになにより、ぱっつんぱっつんな胸に引っ張られて前のすそが持ち上がっている。こっちも、前任者用をそのまま着込んでいるっぽい。

委員長のやつ、手段を選はなくなってきているな。

まあ、それはともかく。魏の陣営はみんな女。どっかの性転換マンガのようだ。うちの出し物は、クラスの女子がウエイトレスする中華喫茶はともかく、テーマ自体はマジメなものだったはずだ。

「どう、真田君。これなら寂しくないでしょ?」

その後に、委員長の佐伯が得意そうに顔を出した。

「寂しくって、俺ぁ寂しいなんて言った覚えはねえぞ!?」

いつのまにこいつらを説得したのかとか、いつのまにコスチュームを揃えたのかとか、聞きたいことはいくつもあったのだが、最初に出てきたセリフは負けず嫌いのガキが言うようなそれだった。

後で聞いたところ、過去に何度か学校に来ていたヒビキとシデンとケイには、秘密裏にコスプレの話を持ちかけていたらしい。何だかんだ言ってもノリがいいあいつらはそれを引き受け、サイズ測定なんかもやったらしい。

その時点ではまだ司馬懿も夏候惇も本来のメンバーがやる予定だったのだが、後の方針変更でその2役が空いたので、やはりそれぞれ学校に来たことがあるクリンと鏡介に頼もうとしていたらしい。それが今日になって、鋭い雰囲気のレイカとインパクト抜群のバレンシアにそれぞれインスピレーションを受けてしまい、急遽頼むことにしたそうだ。すでに他人仕様で出来上がっていたコスチュームには色々と合わない所があるみたいだが、とりあえず入ったからオッケーということらしい。

そして、めでたくお役御免となった“はず”のクリンだったが、そうは問屋がおろさなかった。

「ちょおっと、胸とお尻がきついような気がするんですけどぉ」

なぜか、うちのクラス女子がウエイトレスをする時にするのと同じような格好をして出てきたのだ。

なんでも、クリンの奴、貂蝉(ちょうせん)役に抜擢されてしまったらしい。貂蝉といえば傾国の美女として登場し、無敵超人の呂布をそそのかして董卓(とうたく)を殺させたというおっかない女。実在の人物ではないという説もあるらしいが、確かに呂布役のヤジローも董卓役の佐渡も、いやうちのクラスの男子ほとんどがクリンに骨抜きにされているからあながち間違いとは言えない。もっともクリンの場合、容姿よりもそのキャラクターのほうが大きいんだろうが。

そして、鏡介はナチュラルにハブられていた。ので、お前が曹操やるかと言ったら、丁寧に断られてしまった。

それにしても、いかに優勝を狙っているとはいえここまで部外者を引っ張り込むことに対し、特に女子連中から文句は出なかったんだろうか、と思ったら、ウェイトレスとして接客する女子のチームはテルミが、中国風菓子の仕込みをする女子のチームは紅娘が、指導者としてそれぞれまとめ上げちまいやがったらしい。その正体を知っている身としてはかなり複雑な気分だ。

ま、なんとかなるか。過去に何度も危機を潜り抜けて来た皆の姿を思い返し、また今更考えてもやっちまったもんはしゃあないとあきらめることにした。

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