03.そして何かが動き出した その11
今日は土曜日、補講は半日で終わり。普段だったら午後はこのまま部活動へと向かうんだが、今日は、というかここ数日部活動をやれるような精神状態ではないので、適当なことを言って部活を休み家に帰ることにした。
「お兄ちゃーん!」
その帰り道、駅前通りを歩いていると、なぜか聞き覚えのある声が、俺の耳に入ってきた。
なんでこんなところで?と思いつつ、声がした方向を見る。
がばっ。
すると、どこから現れたのか、その声の主であるケイが飛びかかって来た。
「おかえりなさーいっ!」
よける間もなく、ケイが俺の首根っこに抱きついてぶら下がってくる。
「わ、ちょ、ちょっと、なっ」
「んもう、お兄ちゃんったらケイのことどこにも連れてってくれないんだもん。だから出てきちゃったよぅ♪」
「こ、は、離せ離せ、まわり、まわり見ろ」
あわててそんな事を言ってしまう。
ぶら下がられるのは昨日経験しているからまだいい。だが、場所が悪い。土曜日の昼の駅前通りは、人出が多いのだ。
そんな中であんな大声で「お兄ちゃーん」なんて呼ばれて、あまつさえ往来のど真ん中で抱きつかれた日には、当然のようにじろじろと見られてしまう。
「お勤めご苦労様です。将仁さん」
そこに、違う人が顔を出す。
「うえっ、べ、弁護士さん?どこから湧い、じゃなくて、なんでここに」
「ええ、ちょっと買い物に」
思わず失礼なことを言いそうになったのに、常盤さんは怒ることなく対応してくれる。ありがたい話だ。なんで買い物でこの二人が一緒なのかは別として。
「買い物、ですか?」
「はい。お宅の皆さんと話し合った結果、これから色々と要り様になりそうだ、という話になりましたので」
「ほら、みんなのぶんの歯ブラシだよ♪」
ケイが、買ったばかりの赤いナップサックを開けて中身を見せる。中には何本もの未開封の歯ブラシと新品の歯磨き粉、そして俺が使ったことの無いマウスウォッシュなんかが入っていた。
「マウスウォッシュなんて、誰が使うんだ?」
「あ、それクリンちゃんが欲しいって言ってたの」
なんでそんなもんが、と思うが、まぁ女の子のすることだから口出しは控えておこう。
そして、二人の持ち物を見たところで、俺はあることに気がついた。
「何か少なくないですか?」
色々入用、と言ったわりには、荷物らしいものはケイのショルダーバッグと常盤さんが持っているポリ袋1つしか見当たらない。まぁ常盤さんは俺らと違うところに住んでいるから除くとしても、歯ブラシとマウスウォッシュだけってことはないだろう。
「ああ、他は、テルミさんと鏡介さんにお願いして、先に持って帰ってもらいました。中には生ものもありましたしね」
「へぇ?」
なんとなく、男だから荷物もちをさせられる俺、もとい鏡介の姿が連想される。
「あいつも大変だなぁ、俺が呼んじまったせいでこき使われているのか」
思わずかわいそうに思ってしまうのと同時に、俺でなくてよかったと思ってしまった。
どうも、作者です。
ケイのブラコンぶりに拍車がかかってきました。
こういうのを書くにつれ、うちの携帯電話は私をどう思っているのか、とっても知りたくなってしまいますな。
次回、久しぶりに新しいメンバーが加わります。
乞うご期待!




