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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
16.新旧おやくだち合戦
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16.新旧おやくだち合戦 その18

「あー畜生この野郎」

朝から俺は買出しに引っ張り出されていた。

学園祭の前日は、朝のクラス会はあるが授業は無い。準備のラストスパートに取りかかるからだ。

クラスによっち今徹夜してまで準備をするところもあるし、準備は完了しても「前夜祭」と称して徹夜で盛り上がる所もある。

うちの場合は、ギミックの類はほぼ準備完了しているのだが、出し物のメインが中華喫茶、つまりはナマモノだから、仕込みは前の日にやらなきゃいけないのだ。

というわけで、料理ができない野郎どもの多くは手持ち無沙汰になってしまい、女子にいいようにこき使われている。かく言う俺もその一人だ。

しかも俺の場合、展示物やギミックの作成にあまり参加しなかったことや、モノたちや賀茂さんやクローディアお嬢様との仲に対する嫉妬(野郎どもの間ではこっちがメインだろう)とかがあって、男子たちの間で徹妙に孤立してしまっている。

というわけで、俺は今、薄力粉30kgが入った袋をくくり付けた背負子をしょって、登山初心者のようにひーこら言いながら歩道を歩いている。

ああ、手押し台車が欲しい。

「お兄ちゃん、犬丈夫?」

後ろから荷物を押しながら、ケイが声をかけてくる。押すと言っても非力なケイのことなので本当に手を添える程度だが、それだけでもなんか軽くなったような気がする。

このまま帰ったらまた白い目で見られるかもだが、背に腹は代えられない。陸上自衛隊の特殊部隊は40kg以上ある背嚢を背負って何日も演習するというから、それよりはマシだと考えなおし、歩くことにする。歩かなければ着かないからだ。

なんか、登山のヘルパーになったような気分で、学校までの道のりを歩く。普段なら何のことは無い道がおっそろしく遠いように感じる。

「ずいぷんと重そうじゃねえか」

その俺に、話しかける声があった。どこかで聞いたような声だったので、何の気なしにそちらを見やる。

「!!!?!??どわあっ!?」

「きゃあっ!?」

その瞬間。俺は驚きのあまりひっくり返ってしまった。

「おいおい、そんな驚かなくてもいいだろうがよ。ちょっと傷ついたぞ?」

その声の主は、びっくり返った俺を見おろしながら、でもちょっとだけ面白そうに言葉を続ける。

だが、驚くなって言うほうが無理だ。だってそいつは、2mはありそうな筋肉質の体に刃物のような髪色にハリネズミのような髪型、神輿をかつぎそうな格好に金属光沢のタスキをしていたからだ。

「お、お、お、お前は、こ、虎鉄!?」

そう。そこにいたのは、たった2目前、俺を殺そうとして乗り込み、うちの武闘派ナンバーワンのヒビキすら圧倒していた式神、白虎の虎鉄だったのだ。

「お、お、お、俺を、こ、こ、殺す気か」

あの時の光景は忘れられるものではない。なんとかそれだけ言葉を吐き出す。

ケイもそれは同じだったのだろう。目の前のワイルドな大女を見て、完全に涙目になって織にしがみついている。

だが、虎鉄はそんな俺たちを見て、意外な返事をした。

「あのなあ、手伝いに来てやったのに、そんな言い方はねえんじゃねぇの?」

そしてしゃがみこんで俺と目線を合わせてくる。

「へ?手伝い?」

「そうだぜ、おめぇが一人で買出しに行かされたのを知って、杏寿はわざわざあたいを手伝いに行かせたんだぜ?」

そして、歯を見せてにかっと笑う。その表情に害意はないような気がするが、なにしろ殺されそうになった相手だ、そうそう安心なんかできない。

「まあ、信じられねぇってのは判らなくもねえけどな」

すると虎鉄はすっと立ち上がる。

「けどまあ、今は安心してくれていいぜ。そういう命令はされてねぇし、あたいも今はそんな気は全くねえからよ」

そして、俺の後ろに手を仲ばす。

「おわ!?」

その直後。俺の体が、なぜか上に引っ張られ宙ぶらりんになる。背負っていた30kgの小麦粉と背負子も一緒にだ。

「お、おにぃちゃん!?」

ケイの裏返った声に我に返った俺は、そこでようやく、虎鉄のやつに片手で持ちあげられたのだと理解した。

そういえば、この虎鉄って奴は、ヒビキ並みかそれ以上の怪力の持ち主なんだった。

「ちょ、ちょっと持て、降ろせ、降ろしてくれ、は、運ぶのは荷物だけでいいから」

そう思うと急に怖くなり、また声が震えてしまう。

すると、虎鉄は素直に俺を降ろしてくれやがった。

「あ、ありがとう」

「礼言う前に、おめぇのその背負子を貸しな。持ってってやっから」

「あ、それは、あー」

「遠慮すんなって、そのために来たんだから。それとも、その荷物ごとおめぇも担いでってやったっていいぜ?」

そう言っていたずらな笑みを浮かべる虎鉄からは、確かに俺をどうこうしようという様子は感じられない。なんというか、近所の豪快なねーちゃんが悪ガキをからかって遊んでいるような感じだろうか。

「いや、それは遠慮しとく」

さすがにそれは恥ずかしすぎるので、そう返事する。

そしてその時になってようやく、俺は虎鉄の奴への警戒心が薄れていることに気がついた。


気が付いたら2年近く経ってました。

小説家になろうの投稿フォームも変わっていました。

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