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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
16.新旧おやくだち合戦
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16.新旧おやくだち合戦 その17

駅前に、高級感のある黒塗りのベンツが入ってくる。

そしてそのベンツは、ロータリーに立つ赤いライダースーツを着込んだ女の前で停まった。

「よお、メル。遅かったじゃねえか」

ライダースーツの女は、音もなく開いたベンツの窓に肘を置いてその中を覗きこむ。

どこぞのコンパニオンを思わせる格好をした金髪の女が、運転席に腰掛けてハンドルに手をかけたままこちらを見ていた。

「あんなずるいショートカットして、勝ったなんて威張らないでよね、ヒビキ」

そして金髪の(メルセデス)は、ライダースーツの(ヒビキ)に向かって指でピストルを打つような仕草をする。

なにしろ、メルセデスが車としてのボディがあるので真面目に道路を走ってきたのに対し、ヒビキは屋根から屋根に飛び移ったり塀を飛び越えたりと、道ですらないところをショートカットしまくったのだから。

スタートからゴールまでが曲がりくねって続く道を、メルセデスは道にそって走り、ヒビキは道など構わず直線ルートで突っ走ったと言えばわかるだろう。

「ま、勝負はまだついてないから油断しないほうがいいわよ」

「あん?」

「まだまさっちのご両親は来てないでしょ。そこがゴールよ」

すると、ヒビキはちょっと肩をすくめ半笑いになった。

「あー、そりゃ止めといたほうがいいと思うぜ?」

「なんでよ」

「だってお前、ここは駅前で駐車禁止だぜ?そこにこんな図体のでかい車をほっぽっとくなんざ、迷惑以外の何物でもねえだろ」

「大きさなんて替えればどうにでもなるじゃない」

「やるのはお前の勝手だがな。こんな人目の多い所でそんなことやらかしたら、とんでもねぇ騒ぎになるんじゃねぇか?ただでさえおめぇは目立つんだしよ」

「・・・・・・だったら、あんたも行かせないわよ」

言うなり、ヒビキが肘をかけていた窓が閉まり始める。ヒビキを挟みこんで身動きとれなくしてしまおうという魂胆だ。

だが。

「残念だったなぁ」

体を挟むには到底足りないところで、窓の動きがぴたりと止まってしまった。

ヒビキが、窓の淵に手をかけて押さえているのだ。普通の人であればそんなことは到底無理だが、なにしろヒビキは怪力の持ち主だ。その程度のことなど造作もない。

「だいたいお前、祥太郎さんも松子さんも顔を知らねぇだろ。その分あたしゃ将仁が一人暮らしする前から知ってっからなぁ」

「くっ・・・・・・」

そう言われてしまうとメルには反論ができない。

「てワケだ、おめぇはここで大人しく待ってな」

ヒビキはそう言って窓枠から手を離す。直後、窓が逆向きのギロチンのように勢いよく閉まったが、その閉まりきった窓の向こうでヒビキは意地悪な笑みを浮かべつつ手を振っている。

それは相当メルをむかつかせたらしい。

「だったらとっとと行きなさいよっ!」

突然、誰も触れていないはずのドアが、勢いよく開いた。

「どわっ!?」

完全に不意打ちだった一撃は、ヒビキを簡単に突き飛ばした。

だが、そこは頑丈なことに定評のあるヒビキのこと。妙にアクロバティックな動きで着地すると、平然と立ち上がった。

「ったく底意地の悪い奴だな」

そんな独り言がヒビキの口から漏れる。そして、メルセデスが睨んでいるのに気付いたヒビキは、やれやれと言いたげに肩をすくめると、駅の構内へと歩き出した。

「さ~てと、親父さんはどこけすか~ってね」

軽く鼻歌なぞ歌いながら、ヒビキは教えられた待ち合わせの目印を探す。

三路線の分岐点となっているこの駅は、構内もそれなりに広い。そしてその一角に、切り絵を元にしたステンドグラスが設けられており、待ち合わせ場所に使われているのだ。

「お、あれか」

迷ってなければ、彼女が迎えに来た相手も、そこにいるはずだ。

だが、そこでヒビキは、全く予想していなかった相手と鉢合わせてしまった。

「おう。ヒビキよ、遅かったではないか」

深緑の袴姿に黒のおかっぱ頭。そして頭のてっぺんで束ねてから流されたひと房の銀色の髪。

まだ少女と言っていい年頃のその娘は、ヒビキを見つけると偉そうな口ぶりで声をかけてきた。

「おうって、なんでお前がここにいるんだよシデン!?」

「これは異なことを言う。勿論出迎えに決まっているであろう」

シデンは、さも当然と言いたげに言葉を返す。

「いや、でもお前確か屋敷で留守番してたんじゃねえのか!?」

「来たらならぬとは、誰も言っておるまい。違うか?」

「そりゃそうだけどさ」

そうやって二人は何やら言い合いをはじめる。

「んじゃ、まあ、おめぇがここに居るのは納得するとして。まだ来てねぇのか?」

「まだとは、何がだ?」

「おい、ボケてんのか?祥太郎さんと松子さんだよ。時間的にはもう来ててもいいはずだろ」

「ああ、そのことか。それなら」

「ったく、祥太郎さんはともかく松子さんはそういうとこしっかりしてたハズなんだがな」

「代わりのものが、って、こら貴様、人の話を聞かぬかっ!」

「あぁん?だってお前の話っていつもどうでもいいとこが長いんだもんよ」

「どうでもいいとか言うな!」

ステンドグラスの前で口論をする二人のまわりには、いつのまにかちょっとした人だかりが出来ていた。なにしろ、二人とも外見が特徴的だ。当然目立つ。

「よお、待たせ・・・・・・あれ、ヒビキじゃねぇの」

本人たちが気付かないギャラリーの中から、ごつい男が声をかけてきた。

「お、待って・・・・・・・って、龍之介じゃねぇか!?」

そのごつい男こそ、将仁の義兄、真田龍之介その人だった。

「なんだよシデン、ヒビキが来てんだったらそう言いやがれよこの野郎」

「何を言うか兄君、聞こうとしなかったのは兄君のほうではないか」

「そりゃ、バラバラで迎えに来るたぁ思ってもねぇもんよ」

「それよか、龍之介。祥太郎さんと松子さんはどうしたんだよ?」

話を進める二人の間に、ヒビキが割って入る。

「ああ、二人なら来ねぇよ」

「なんだってぇ?」

だが、龍之介の口から出てきた言葉に、ヒビキは耳を疑ってしまった。

「いや、ちょっとうちのほうで揉め事があって来らんなくなっちまってよ」

「揉め事ってなんだよ」

「おめぇなら知ってんだろ、親父がアパートの管理人してること。家賃を払わねぇ住人がいたらしくてよ、おめぇが代わりに行って来いって」

「あぁ・・・・・・」

実際はもっと色々あるのだろうが、あの2人が来ていないのは事実なので、とりあえずは納得することにした。

「しっかし、あいつも運がいいんだか悪いんだかわかんねぇよなぁ。引っ越すたびに家がでっかくなるたぁよ」

「龍之介も、興味あるのか?」

「そりゃあらぁな、なにしろ拝観料が取れそうなぐれぇの屋敷なんだろ?」

「何事も、大きければ良いというものでもあるまいがな」

「おいシデン、なにひがんでんだよ?」

「なんでもないっ!」

何か気に食わないことでもあるのか。シデンがふんっとばかりにそっぽを向く。

「まあ、いいか」

ちょっと肩をすくめた龍之介は、今度はヒビキに声をかける。

「で、ヒビキ。その屋敷ってのはあんまし近くねぇって聞いたが、どんぐらいかかんだ?」

「ん?まぁそうだねぇ、あたしの足で4~50分ってとこかねえ」

「おめぇの足でって、そりゃ随分と遠いんじゃねぇのか、おい。タクシー代足りるかね」

そして龍之介は少し困った顔を見せる。なにしろ、間際で代理を仰せつかったので、あまり持ち合わせを持って来なかったのだ。

「あーそれなら心配はいらねぇよ」

「それって、おめぇにおぶさってけってぇんじゃねぇよな?いくらオレでもそいつぁ恥ずかしいぜ?」

「違う違う、車が下で待ってんだよ」

「あん?車だ?」

「将仁の前の代から西園寺んトコにあった車なんだとよ」

「へぇ、まあそりゃ資産五千億の家だもんなぁ、車の1台や2台ぐらいはあんだろうが・・・・・・なんでそんなに機嫌悪ぃんだよ、運転手とケンカでもしたんかよ」

「上官の兄君、擬人化の力が代々伝わるものだということは存じておろう」

「・・・・・・おめぇ、もしかして“車”とケンカしてんのか?不安になっちまうなあ、そんなのに乗んの」

「ま、龍之介が乗る分にゃ問題ないんじゃないか?そこまでバカじゃねーだろうし」

そしてヒビキは、龍之介の腕をむんずと掴むと強引に歩き出す。

「わ、ちょ、こら」

「立ち話もなんだし、そいつんトコまで案内するわ。乗るかどうかはそこで決めとくれ」

「ヒビキ、貴様はどうするつもりだ」

「あたしかい?あたしゃ止めとくよ。何されるか判ったモンじゃねぇしな」

「おい、なんだよそりゃ!?」

シデンの問いに答えるヒビキは半笑いだが、その顔が見えない状態で引っ張られる龍之介は珍しく真剣に不安な顔をしている。

「そんな心配すんなって、乗り心地だけはそんな悪くねぇって保障してやっから。あ、でも、おめぇが将仁の兄貴だってことはちゃんと説明しとかねぇとヤバイかもな」

「余計に不安になtっちまうじゃねーかあああぁぁぁっ!」

龍之介の不安などお構いなしに、ヒビキは、半分本気で抵抗する龍之介を持ち前の怪力で引きずっていく。

「兄君よ。武人たる者、何時如何なる時も覚悟を持って万事に臨むべきであるぞ」

抵抗むなしく引きずられていく龍之介に、シデンがそんなことを言ってからかう。

「むちゃくちゃな事言いやがるんじゃねえええええええっ!」

そして、じたばたと暴れ、情けない悲鳴をあげながら、龍之介は、ヒビキに引きずられて行った。

どうも、作者です。

4ヶ月近い間が開いての更新になります。

しかも、それだけ引っ張ったのに、肝心の主人公の育ての両親は登場せず。肩透かしを食らわせてしまい申し訳ありません。



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