16.新旧おやくだち合戦 その16
そのころ。
屋敷のそこここで起きている不穏な空気を、まるで他人事のように見つめている一団がいた。
絵画の中にいる先代当主・西園寺静香と西園寺家顧問弁護士にして懐中時計の付喪神・常盤花音代、そして鏡の擬人化にして今現在唯一の男性・加賀美鏡介である。
彼らは、とある一室に集まり、そなえつけの姿見を眺めながらそんなことを喋っていた。
ちなみに、彼らが見ている姿見には、彼らではなく、メイド2人と女執事1人の押し問答の様子が映っている。
「いいんスかね、なんかここはずいぶんと険悪な雰囲気っスけど」
「いいのいいの、雨降って地固まるっていうでしょ」
静香がそんな無責任なことを口にする。
「降るのが血の雨じゃなけりゃいいんスけどね」
それを受けて、鏡介が剣呑なことを口走る。事実、その女執事とメイドのやりとりは、いつそうなってもおかしくないように見えた。
「つか、あかりさんって、他の人と違って、明らかに俺らに敵意を抱いていますよね?何か気に入らないことでもしたんスかね」
「それは、彼女が『家』という存在だからではないでしょうか」
そう答えたのは、常磐弁護士だった。
「家というものは、元来、雨露を凌ぐためのもの。それがやがて、外から降りかかるものを遮断して中のものを守る、という意味合いを持つようになりました。
おそらく彼女は、あなたたちを『外から来たもの』と見て、警戒してしまっているのだと思います。
加えて、西園寺家はその家人に伝わる力の所為で、古来より、色々な意味で狙われることが多い家柄でしたから、余計に、なのでしょうね」
「そんなもんスかねぇ」
鏡介は、いまいち納得がいかないような口調で答える。
「それと」
常盤弁護士が、そう言って絵の中の女、静香にちらりと目をやる。
「静香様が、身の回りの様々なことを、彼女がまだ彼だった時に、させていた事が原因のひとつかも知れません」
「常盤、それはどういうこと!?」
いきなり名指しでそう言われ、絵の中から出てくるんじゃないかという勢いで静香が身を乗り出す。
「無論、言ったとおりの意味です。晩年はほとんど屋敷から出ず、自分の身の回りの世話は全て“彼”にさせていたという事実、忘れたとは言わせませんよ?」
「それは・・・・・・あの時は、かなり弱ってたし、それに、人間の味方が誰か、判らなかったから」
だが、常盤に問い詰められると、急にしょんぼりと落ち込んで、自信なさげに答えを返す。
「とにかく、最後の最後まで、“彼”にそれをやらせていた。当然、“彼”はそれを自分の役目として続けた。そして“彼”が“彼女”となった時、その役目の対象は将仁さんに移った。そう考えれば、彼女がテルミさんやクリンさん、将仁さんの言葉を借りれば『年少組』にきつく当たるのも、自分の役目、自分の縄張りを護ろうとしているからだとも取れます。
少なくとも私が見た限りでは、擬人の方々はほぼ例外なく、自分の役目、自分の居場所を大切にしますから」
「まあそりゃ、人のように振舞っているとはいえ、俺らは所詮はモノですもんね。モノには大概作られた理由があって、それが一番の存在意義と言ってもいいぐらいスから」
腕を組んでうなづく鏡介。だが、すぐに顔を上げるとこう付け加える。
「でもあれは、どう見てもただの嫉妬にしか見えないんスけど?」
「まあ、ただの嫉妬でしょうね」
すると、常盤は、今まで長々と説明したことを、あっさりと覆した。
「感情を持ってしまった以上、感情で動いてしまうこともあるでしょう。今までの経緯もあることですし、自分が一番でなければ気に入らない、といったところかと」
「あぅ、だからそれにはワケが」
少しだけ棘のある常盤の言葉に、静香はしどろもどろになりながら答えようとする。
そんな2人を眺めながら、鏡介は、この2人はちょっと仲が悪いのかしらんと、勘ぐってしまうのだった。
あけましておめでとうございます。ってもう1月も2/3が過ぎてましたな。
年明け前に投稿したいなどとほざきながらこの体たらく。
今年は、せめて自分が宣言した目標ぐらいは守ってみせたいものです。