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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
16.新旧おやくだち合戦
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16.新旧おやくだち合戦 その15

「♪~♪♪~」

廊下に面した大きな窓のひとつに、白い髪のメイドが張り付いている。

その両手はまるで窓を拭くように動いているが、手には何も持っていない。そのため、手のひらで窓を撫で回しているようにしか見えない。

さらに、そのメイドは顔までもその窓に当たりそうなほどに近づけ、同じように動かしている。

そのため、張り付いているように見えるのだ。

「おい、そこのメイド」

傍から見たら奇行にしか見えない行為をするその白い髪のメイドに、声をかける者がいた。

執事服に身を包んだ、長身の女性だ。

「ひゃい?」

そのメイドが、気がついたらしくこちらを振り向く。そのメイドの様子を見て、執事服の女は驚いたように一歩後ずさりした。

なぜなら。そのメイドは舌を出していたのだが、その舌が異常なほどに長かったからだ。

その舌を、うどんかきしめんでもすするように自分の口に引っ込めると、白い髪のメイド、クリンはあらためて自分に声をかけた女性、あかりのほうに向き直った。

「あらぁ、あかりさん、何かご用でしょうかぁ?」

そして、ほんわかした笑顔を浮かべる。

一瞬毒気を抜かれたあかりだったが、振り払うように頭を振ると、クリンをきっと睨みつけた。

「お前、何をやっていた」

「えぇ?何ってぇ、窓拭きですけどぉ」

「嘘をつけ嘘を、窓ガラスを舐めて掃除する奴がどこにいる」

「あらあらぁ、ここにいるんですけどぉ」

「だからそれを止めろと言っているのだ。私はこの屋敷だ。そんな気持ち悪いことをするな」

「むぅ、気持ち悪いとはひどいですぅ。私はお風呂のスポンジなんですよぉ?拭き掃除はぁ、私のお仕事ですぅ」

はじめはのんびりというかのらりくらりと答えていたクリンだったが、話の内容が言いがかりに近くなるにつれ、だんだんと声を荒げるようになっていく。もっとも、口調がのんびりしているため怒っているようには感じられないのだが。

「あなたたち、何をしているのでしょう?」

そこに、新しいメイド服姿の女性が顔を出した。黒いほうのメイド、テルミだ。両手に大きな洗濯かごを抱えているので、今から干しにいくのだろう。

「あ、テルミさぁん」

地獄に仏、といった様子のクリンがテルミにすがりつく。

いっぽうのあかりは、忌々しいものでも見たかのようにその黒いメイドをにらみつける。

「お前には関係のないことだ。さっさとその洗濯物を干してきたらどうだ」

その高慢な言い方は、さすがのテルミでもカチンと来た。

「そういう貴方は何をしているのでしょう?まさかどこぞの小姑のように文句を言うためだけにうろついているのではないでしょうね?」

「ばかなことを言うな。私はこの屋敷だ。ここに住まわれる将仁様のためにも、隅々まで綺麗にしておかねばならんのだ。

それをこの女は、あろうことか舌で舐めていたのだ」

「そんな悪いことでしょうか?舌で舐められるほど綺麗だとも、言えるのでは?」

「ふざけるな。なら訪ねるが、貴様は自分の体を他人に舐められて嬉しいのか?」

「でもぉ、将仁さんはぁ、喜んでましたよぉ?」

だがそこで、クリンがうかつな発言をしてしまった。

「な、な、な、なん、なんだとっ!?」

その瞬間、あかりが色めき立った。

「だって、私はお風呂のスポンジでしたからぁ。お風呂にだってぇ、一緒に入った仲ですよぉ?」

「ちょっと、クリンさん!?なんてはしたないことを言うのでしょう!?」

「えぇー?だってぇ、テルミさんだってぇ、似たようなことぉ、していたじゃないですかぁ」

「に、似たようなって、私のは全く違うでしょうっ!確かに私はDVD再生もできますし、将仁さんもそういうことに興味あるお年頃でしょうから、そう言った類のものをお見せしたことはありますし、自家発電されているのを間近で見させていただいたことも、あるでしょうが」

「あのぉ、私ぃ、そこまでは言っていないんですけどぉ」

いつのまにか掃除の話から自分たちの主の話に切り替わっているが、彼女らにとっては掃除より興味深い事なので、話が止まらない。

「お、お、お、おおおおお前たち、そん、そんなうら、違う、けしからんことをしているのか!?」

そして、3人のなかでただ一人そういうことができていないあかりが、目の色を変えて裏がえった声をあげる。周囲の窓がガタガタ鳴り、ドアがバタバタと音を立てて開閉している時点で、すでに落ちついていない。

「私たちは、自分の役割を果たしているだけでしょう。それをけしからんなどと言われるのは心外なのでしょう」

「そうですよぉ。そんな言い方をするほうがけしからんのですぅ」

優位に立った白黒メイドは、その優位を保つためさらに強気に出る。そもそも、目の前にいるあかりという女は年長組と年少組の対立をはじめにけしかけた奴なので妥協する気は毛頭ない。

おかげであかりの機嫌はますます悪くなり、シャンデリアが揺れたりとポルターガイストじみた現象まで起きだした。

「あらぁ?もしかしてぇ、うらやましいんですかぁ?」

「う、うらっ、うらやましくなんかっ・・・・・・」

すでに冷静さを失っていたあかりに、クリンが挑発的な言葉を投げかける。

「あるに決まっているだろうがぁっ!」

そして、あかりが叫んだ。

「だって将仁様は、本来であれば、この私と共に生きていたはずなのだっ!それがっ!17年もの間、私と全く関係ない所で暮らしっ!私ができなかった、あーんなことやこーんなことをしただなんて言われてっ!うらやましくないはずがあるかぁっ!」

「それなら私たちを目の敵にするのは明らかに筋違いでしょうっ!」

だが、テルミにぴしゃりと一喝されると、あかりは黙り込んだ。

「それに、将仁さんは、同じモノ同士、仲良くしろと仰っているでしょう?私たちは将仁さんのモノ、将仁さんの意思は私たちにとって絶対なのでしょう」

「でもぉ、将仁さんはぁ、私たちをそんな目では見ないんですよねぇ」

クリンが、すっとあかりのそばに近づく。

「それにですねぇ」

クリンが、そっとあかりの首に手を回し。特徴のひとつである長い舌でつーっと舐め上げる。

「ひっ!?」

「将仁さんも若い男性ですからぁ。こういうのがお好きなんですよぉ?」

こんなことをされるのは初めてなあかりは、顔を真っ赤にしてびくっと体を硬直させる。

「ふぉういうほとぉ、ひてひゃひあげひゃらぁ、ひょろほばれると思いまふよぉ?」

そう言いながら、長い舌を器用に動かして首筋周りや耳の周りを嘗め回す。それに加えて体のいろいろなところを、こちらは手でいじりまわす。

「んぁっ、ちょ、や、やめ、ちょ、やめっ、ひぃんっ」

免疫が無いらしく、されるがままのあかり。逃げようにもクリンにしっかり抱きすくめられてしまい、それすらできない。

いつもならすぐに止めそうなテルミも、今日はメイド立ちでニコニコ笑いながらそのようすをじーっと見つめている。と、やにわにマントの前を閉じると、さっとその前を開いた。

テルミなので、そうすると当然60インチのプラズマディスプレイが現れる。

そしてそこに映されたものを目にした瞬間、あかりは目を見開き絶句した。

そこには、クリンに体をまさぐられ、身悶えするあかり本人の姿が映されていたのだ。

「ふふふ、クリンさん、良い仕事をされるのでしょう」

そう言うテルミの目は、かなり意地悪に光っている。

「もしこれを、将仁さんにお見せしたら、将仁さんはどんな反応をするのでしょうね」

その瞬間、あかりの顔が真っ赤になった。

「おいこら貴様ら、んっ、こんなことしてっ、はぁっ、ただですむとっ」

「仕掛けてきたのは、そちらでしょう?」

そう言い切るテルミの目に、すっ、と冷たい光が宿る。

「私たちは、あなた方とも仲良くやっていかれる。そう信じていましたしそうするつもりだったのでしょう。それを否定したのはあなた方、もっと言えば、貴方でしょう」

「仲良くやっていたら、一番にはなれないじゃないかあぁぁぁっ!」

うがーっ!とばかりにクリンを全力で振りほどき、肩で息をしながらテルミをずびしっと指差す。

「一番になる必要が、何処にあるのでしょう?」

だが、テルミはそれに対し極めてクールに、事務的に答える。

「私たちは、モノ。それぞれ果たすべき役目、役割、立場も違うでしょう。一番にこだわるならば、それを成すことこそが、将仁さんにとっても一番なのではないでしょうか?」

「うぐっ・・・・・・」

真正面からの正論に、あかりは一瞬言葉を詰まらせる。

「し、しかしだなぁ!今は、モノであると同時に人であり、そして女なのだ!女として見て欲しいと思って、何が悪いのだっ!」

だが、すぐに気を取り直すと、そう言い返したのだった。

久しぶりです、作者です。

なんというか、間があくと、内容が収拾つかなくなりそうで怖いですね。

次は、なんとか年明け前に投稿したいなと思います。

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